「マーケットずらし」で、新顧客獲得
「アイウエア業界において、格安メガネブランドの戦略は実に革新的でした。メガネに対する世間のイメージを根底から覆したわけですから」
子ども時代からメガネ少年だった公認会計士・税理士の柴山政行氏にとって、長らくメガネの存在は悩みの種だったという。
「1965年生まれの私の世代は、メガネに対して苦手意識を持っています。メガネをかけていると、ガリ勉タイプとか、のび太君のようなひ弱タイプとかいわれて。ダサさの象徴がメガネだったんです」
そんな社会的イメージが変わったのが野球の古田敦也選手の登場だったという。「メガネでも強い」と勇気づけられ、続くZoffやJINSのおかげで一気に「メガネ=かっこいい」概念が根付いたそう。
「『メガネ男子』なんて言葉まで誕生して、メガネがファッションの一部になったんです」
つまり「新御三家」が成し遂げた一番の功績は「安いメガネを生産し大量に売った」ことではなく、そもそものメガネの概念を一変させたこと。これを柴山氏は「コモディティのファッション化」と呼ぶ。
「高度経済成長期は、日用必需品(コモディティ)を皆がこぞって買った時代です。しかし今は違う。日用品はどの家庭にもすでにあるわけで、今度はいかにして『本来はいらないもの』を買わせるかに知恵を絞らなくてはならない」
それがメガネをファッション化することだった。今や視力に問題がなくても伊達メガネを楽しむ若者は多い。実はこの手法、ライザップやしまむらなどにも通じている。
「隠れてやるものというマイナスイメージだったダイエットを、ライザップは見事にファッション化。タレントや有名人をCMに起用し、流行化させました。しまむらもしかり。一昔前は“中高年女性が下着を買う店”の位置づけだったはずなのに、いつの間にか若い女性の間で人気なファストファッションショップに変身しました」
彼らは新たな商品をゼロから生み出したわけではない。既存商品のマーケットをずらしただけだという。
複数買わせるリピーター獲得術
「ファッション化」の神髄は、新顧客を掘り起こすだけではない。本来1つで事足りるアイテムを複数購入させることができる点だ。
単なる視力矯正器具としてだけのメガネならば、基本的に1人1個持てば十分だ。しかし“ファッション”となれば話は別だ。季節や気分、服装によって靴やネクタイを選ぶように、メガネもTPOに応じて選び分けたい。そんな人が増える。かつてのコンピューターや携帯電話同様、「1人1台」の時代から「1人複数個保有」が当たり前になった。