10年を超えるような息の長いテレビCMが増えている。社会学者の鈴木洋仁氏は「炎上とコンプライアンスを恐れ、斬新な視点や論争ぶくみの刺激から逃げている。広告から見る平成は、『ダラダラしてゆるい』時代だった」と分析する――。

※本稿は、鈴木洋仁『「ことば」の平成論 天皇、広告、ITをめぐる私社会学』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

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広告メディアが高く評価したサントリーのCM

月刊誌『広告批評』は昭和54年(1979)年に創刊され、平成21年(2009)年に休刊するまでの30年間、昭和から平成半ばにかけて放送されたテレビCMを中心とする数々の広告を批評してきました。本書が対象としている、平成元年(1989年)から平成20年(2008年)までの20回の『広告批評』のベストテンに選ばれたCMは、総数で208本あります。

1位の該当作がなかったり、あるいは2位や10位が複数選ばれていたりしているため、10本が20年、というわけではありません。この208本の中で、最も多く選ばれているのは、21本のサントリーです。次点がキンチョーの12本ですから、質の高さもさることながら、『広告批評』との相性が良いとも言えます。

サントリーへの高評価の理由は、どこにあるのでしょうか。もちろん、ただ単に相性が良かっただけ、とする解説もありえます。「昭和」的な、もしくは、1980年代的な、「リクツ抜き」といった語をわざわざカタカナ書きにする昭和軽薄体的なノリを、サントリーのCMがあらわしていたからだとする説明は、それなりに納得できるかもしれません。

「アルコール消費量が増えた」では説明がつかない

あるいは、市場規模からの説明も可能です。平成7年(1995年)には、15歳以上の生産年齢人口がピークに達します。働いている人の数が、日本の歴史上、最も多くなります。すると、アルコールの消費量も増えます。市場が大きくなるからこそ、サントリーもまた新商品を作り、それに伴うCMを展開していたのだとする説明は、それなりに説得力を持ちます。

ですが、消費量とCMへの評価は比例しないばかりか、必ずしも関係があるとは言えません。確かに「平成」のあいだには、高齢化に伴い、介護や健康食品の市場が拡大しています。

とはいえ、そういった業界のCMのクオリティーが高かったり、あるいは『広告批評』が高評価したりするわけではありません。また、仮に消費量が増えているとしても、なぜ、それがサントリーのCMへの高評価につながるのかは定かではありません。ほかのビールメーカーや、清涼飲料水会社もまた、市場規模の拡大に伴い、CMへの投資を増やしている(と考える方が普通だ)からです。

ですから、ここでは、サントリーと『広告批評』の相性の「本当の」理由を探るよりも、あくまでも現象に注目します。それは、アサヒでもサッポロでもキリンでもなく、サントリーが評価され続けた時代こそ「平成」だった、という点に着目したいのです。