生徒の弁当を食べて、「俺が食べたと伝えろ」

アメリカ帰りの英語教師はいつも教卓に腰掛け、一番前に座る生徒の机の上に足を乗せて授業を行っていた。この授業は選択科目だったため、取っていない生徒もいる。すると教師は、「俺の授業を取らないとこういうことになる」と、不在の生徒の机から弁当を取り出し、「俺が食べたと伝えておけ」と言い、本当に食べてしまったのだ。

「ありえない教師ですよね(笑)。けれど授業のレベルは高かったし、何よりその破天荒なキャラが、中高生の心を鷲掴わしづかみにした。その教師を慕う生徒は多かったですね。今なら、週刊誌に書かれてたたかれていたかもしれません。生徒も教師もハチャメチャでしたが、誰もが『東大に行こう』と思っていたので、学級崩壊のようなことは起きませんでした」

自由な校風が生徒の個性を育む

和田氏も武蔵高校を卒業し、1年の浪人の後、目標通り東大文科Ⅱ類に合格する。元から音楽好きだったが、浪人中に聴き始めたヒップホップにはまり、東大を中退してプロミュージシャンとなる。

永井隆著『名門高校はここが違う』(中公新書ラクレ)

「東大を中退したこともありますが、僕にとっての青春は武蔵での6年ですね。何でもありの自由な雰囲気が、今の僕につながっています。ラップは出来事やモノをいかに見て、どう表現するかが大切。そして即興で言葉を紡いでいきます。言ってしまえば、何でもありの武蔵こそがヒップホップだったかもしれない」と語ってくれた。

御三家の一つとして名高い武蔵だが、OBたちの進む道のバラエティの豊富さでは他に抜きんでているように感じる。武蔵中学・高校のグラウンドは都内随一の広さを誇るが、優秀な生徒たちが、恵まれた環境、個性的な教師たちの下で、自由に過ごした結果、このように伸び伸びとした個性が育まれるのかもしれない。

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