「E判定」でも光るものがあれば合格できる

「論述問題が多いのですが、ここで信長、秀吉、家康の人物比較を書き、これが評価されたようでした。僕は『信長の野望』というゲームの大ファンで、戦国武将について誰よりも詳しかったのです」。実際、武蔵中学の入試問題では中学生に解答できるのかと思うような内容が出題される。2018年度の社会科では江戸時代の日本人と銅のかかわりについての記述を読み、知識だけでは答えられない、思考力を問う問題が並んでいた。

入学してみると、「僕だけではなく、E判定だった塾の落ちこぼれが何人かいました。偏差値では難関私立に適わなくても、何か光るものがあれば、武蔵の試験では一発大逆転もありえる。その結果か、武蔵の生徒はバラエティに富んでいました」。

そんな入試をくぐり抜けてきた生徒たちである。自らを落ちこぼれという和田氏も、「帰国子女」という絶対的アドバンテージを持つ一人なのである。10歳までイギリスで過ごした和田氏の英語力はもはやネイティブと同じ。英語の授業で、教師の発音の間違いを何度も指摘していると、「和田、お前はもう授業に出なくていい。定期試験だけ受ければいいから」と、教師から授業免除が言い渡された。

「この緩さが武蔵らしいというか」と笑う和田氏が時間を潰したのは、極太ナポリタンで学生から親しまれた喫茶店「トキ」、そしてゲームセンター「上高地」だった。いずれも西武池袋線江古田駅の近くにある。「ただし、池袋からやって来る不良にカツアゲされないよう、気をつけなければならなかった」。武蔵の生徒には裕福な家庭の子息が多く、不良たちの格好の餌食になっていたのだ。

「成績はサイコロで決めてやる」

生物の教師は、いつも酒臭かった。挙げ句に、「どうせ俺の授業など聴かないだろう。成績はサイコロで決めてやる」と投げやりに授業を進めた。日本史の教師は、江戸時代の農民一揆を研究していたため、授業のほとんどは農民一揆について事細かに解説がなされた。

文部省の学習指導要領はもちろん、大学受験にもまったく沿わない内容だ。「東大を目指してコツコツ勉強する生徒もいるので、彼らは授業を聴かずに参考書を開いて“内職”していました。僕はそんな授業こそ面白くて熱心に聴いていましたけどね」。

また、別の社会科教師は、「現実社会に触れてこその社会」と言い、早朝に漁港に集合させ、生徒たちをタコ釣り漁船に乗せた。そして「タコを釣った者に単位を与える」ということを平然と行っていた。