何も要約しない「要するに」。一瞬で終わらない「一瞬」

【要するに】

この言葉を使うのなら、後に続くのは非常に重要な結論や示唆、的確な要約、わかりやすい言い換えであるべきだろう。だが、往々にして「要していない」のだ。

「要するに」の後に、「今回は予算が足りないので実行できない、ということですね」などと簡潔に結論を示すならいいのだが、大抵の場合は「要するに、これって予算についてもう少し議論も必要だし、今日は結論が出せないから互いに持ち帰ってまた検討しましょうか、って話ですかねぇ」といった調子で、どうにも要領を得ない会話になる。

一応、結論じみたことは言っているものの、ここまで中途半端で長いフレーズが後に続くのなら、「要するに」は「えぇと」や「まぁ」程度の意味合いしか持たない。

なお、要していない「要するに」の類義語には「つまり」もある。さらに付け加えるなら、「逆に言うと」に続く発言は、まったく逆になっていないことが多い。

【一瞬だけいいですか!】

電話や立ち話の際に使われる言葉だが、これも「一瞬」の解釈が人によって異なるため、使い勝手が悪い。でも、つい使ってしまう。

使う人間としては、忙しそうな相手に配慮する気持ちから、「貴重な時間を奪ってしまい申し訳ない。でも、手短に済ませるから」というニュアンスで口にしているのだろう。ただ、「一瞬」が本来意味する時間は、せいぜい1秒~5秒程度のはずだ。そして「一瞬だけ」と前置きして始まった話が、本当に数秒で済んだことなど、私には皆無である。

さすがに「一瞬」は短すぎると思ったのか、人によっては「1分だけいいですか!」や「2分だけください!」などと言うこともある。が、やはり1分や2分で終わったためしはない。こうした言い回しよりも「ちょっと(少し)いいですか? あまり時間はかかりません」のように表現するほうが意図を正しく伝えられると思う。

用いる「言葉」がもっとも雄弁に自分を表してくれる

以上、私が違和感をおぼえる言葉を思いつくままに列記してみた。

人は日々、洋服やヘアスタイル、持ち物、香水などを吟味して、セルフプロデュースに励んでいる。ただ、そんなものよりも「言葉」のほうがはるかに雄弁に自らをプロデュースしてくれる。言葉の使い方ひとつで自分を賢く見せることも、バカっぽく見せることも可能なのだ。実は最もラクで安上がりなセルフプロデュース方法なのに、とかくおざなりにされている。実にもったいない。

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・ビジネスの世界で常套句のようになっている言葉のなかには、曖昧なもの、ノリだけで安易に使われているもの、意味が取りづらいもの、人により解釈が異なるものも多い。そうした言葉を頻用すると、相手に「バカだ」と思われるリスクがある。
・さまざまなセルフプロデュース術が存在するが、最も低コストで簡単に実践できる方法は「どんな言葉を使うか」に気を付けることである。
中川 淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
(写真=iStock.com)
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