謎の広告業界用語──「展開します」

【展開します】

これについてはわからない方もいるだろうが、広告業界(もしかしたら某社だけかもしれない)でよく使われる言葉である。企画書などをメールの添付ファイルで送ったりすると、「展開しておきます!」と返事が来るのだ。

恐らくは「関係者全員に共有しておきます」「これをもとに作業を進めます」といった意味なのだろうが、「展開」だけではあまりに曖昧である。「展開」した後、果たして自分は何をすればいいのかもわからない。「展開した後、フィードバックを明後日までにはお伝えできると思うので、その後さらにブラッシュアップしてください」などと書いてあれば、以降の業務について算段がつくのだが、大抵は「展開します!」で終わりだ。

この言葉も“解釈がいろいろあり過ぎて、どう受け取るべきなのか、これから何をすればいいのかがわからない表現”の典型といえる。「社内の関係者で確認したあと、すぐにクライアントへ提出します。○日までには意見を集約する予定なので、その結果を踏まえて、いくつか修正をお願いすることになるかもしれません」などと具体的に書いてほしい。ちなみに先日、出版業界のメールでも「展開します」が用いられているのを初めて見つけた。ついにブーム到来か?

会議に関連する“モヤモヤ”ワード

【アジェンダ】

「議題」や「検討課題」といった意味だが、見聞きするたび「日本語でいいじゃないか」と毎回思う。「アジェンダ」と言われると、途端に軽薄な感じがするのだ。「本日のぷろぐらむだよ~ん」と悪ふざけしながら言われたような感覚すら覚える。平易に言い換えるにしても「今日の会議で議論する課題と、そのうえで決めるべきこと」と端的に言ってほしい。そのほうが、気が引き締まる。

【検討します】

1980年代後半、アメリカに進出した日本企業とアメリカ企業の会議の映像を見たことがある。テーブルの両側に日米両サイドの従業員が座っているのだが、アメリカ人が何かを言うと日本人は互いに顔を見合わせて、こう返答する。

“We will discuss.”(検討します)

ほぼすべての質問に対してこの回答をしており、10分も過ぎたあたりからアメリカ人はあきれ顔になった。それでも日本側は延々「ウィー・ウィル・ディスカス」と言い続け、アメリカ人の困惑の表情はいつしか諦めの表情になっていった。

会議の本来の意味とは「決めること」だ。伝書鳩のごとく、相手に言われたことをただ聞いて、上の立場の人間に伝えることが目的ではない。その場で双方の主張を擦り合わせ、判断するために設けられるものなのである。もしも自身の立場が下っ端で「検討します」と言わざるを得ない場合は、その会議に参加する人選が間違っている。権限を持っている人間をその場に同席させなくてはいけないのだ。