「正しい自己認識」から始まった栄光のストーリー

一年後、日本代表チームは強豪スコットランドへ遠征。細くて小さくて繊細な日本人の強みと弱みを理解し、格好つけない、こだわりの戦術を選手とスタッフ全員で揺るぎないほど共有した。代表選手らは、監督に学び、困難に自ら立ち向かい、大胆にチャレンジした。プレイがうまく行けば素直に喜び、失敗してもごまかさず、全てをさらけ出すチームに大きく成長していた。

「俺たちは何者か?」を徹底的に貫き、低さと素早さを強みに日本人らしさを全面に打ち出したチームが完成した。結果、全員で鋭く前へ出るスピードと低いタックルを武器に、プライド高きU19スコットランド代表を見事に下した。力強さを武器にした巨漢揃いの敵国に小馬鹿にされながらも、「狂気に満ちた守備」はもはや攻撃となっていた。

日本の若手世代がヨーロッパ勢に初めて勝利した記念すべき試合となったことは言うまでもない。樋口監督の正しい自己認識から始まった栄光のストーリーだ。本書の第九章で「優れたチームは、自己認識を持ったリーダーから始まる」と著者も書いているが、その好事例とも言えよう。

「いままでメンバーを褒めたことはなかった」

スポーツに限らず、ビジネスの現場のリーダーたちも「自分は何者なのか?」と日々戦っている。

「現場で成果を上げて当たり前!」と言われる中で育った我が国が誇る大手商社、伊藤忠商事株式会社に勤める高橋伸治課長。だからこそ、自分に厳しく、そして部下にも厳しくがむしゃらに成果を求めてきた。現場で成果を上げるのが課長の唯一の役割だと信じていたからだ。その結果、部下を育てるという考えは希薄だった。そんな彼が、正直に悩みを語り出した。

「実は、部下育成は僕の一番の課題の一つなんです。今は昔とは違う。人数を見ても、昔は7000人、今4000人。時代、環境は確実に変わっているのに、部下育成の意識が希薄で、単に厳しく接している自分がいました」

「最近の若者はダメ発言」はギリシャ時代から言われているほど、熟年層が陥ってしまう社会の仕組みだ。だからこそ、自己を正当化し、自身の振る舞いを疑いにくくなる。時代が急変しているのに、自分の過去の経験にしがみつくリーダーが多く生まれてしまうのだ。

彼は、コーチングによる対話の中で、冷静に若手の立場になって自分を見つめ直した。外的自己認識を活かし、気づきをアクションに変えた。それから二週間、部下を褒めることを約束。

「正直、めちゃくちゃ、違和感ありますよ。だって、いままでメンバーを褒めたことはなかったから。これまで相当自分は厳しく接してきたと思う。けれど、結局は、僕の考えを最も改めないといけないことに気づいた」

自分はこれまで何をやってきて、これから何をやるべきか? 部下からどのように映り、若者からどのように映っているのか? 心地悪さと向き合いながら、「自分とは何者か?」を問い続けた。その結果、部下の笑顔が増え、チームは活気づいた。