「縦割り文化」を作っていたのは感謝の不足
ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社の髙橋康巳社長は、組織内における部署ごとの強い「縦割り文化」に悩んでいた。皆、自分たちの領域に対する成果へのコミットメントは十分すぎる程高い。一方で、他部署への協力の意識は低く、同時に他部署からの意見や介入を避ける傾向があった。そこで、彼は協力と連携という言葉を強調し、一体感の醸成を掲げた。しかし、反応は薄かった。
「なぜでしょうね、みんながそれぞれ壁を作ってしまうのは?」
という私の問いに、しばらくの沈黙が続いた。
「うーん、個々には本当に頑張ってくれているんだが……」
「へえ、そうなんですね。けれど、それ、きちんと伝わっていますか?」同じく、沈黙が続いた後、
「あー、本当は私の問題なのかもしれません。実は、このサイロ的な縦割感を生み出しているのは、自分が原因だと気づきました。」
メンバーへの感謝やねぎらいを言語化して伝えることが欠如していた。プロフェッショナルだからこそ、やって当たり前だろうという感覚で接していた。それが、高い次元での期待の表明だと思っていた。感謝の反意語は「当たり前」である。感謝が言語化されない組織風土は、他者からの承認欲求を高め、現場の当事者を自己陶酔させやすい。注意力が必要以上に自分たちに向き、結果、セクショナリズムを生み出す。
全ての出発は「正しい自己認識」である
リーダーとしてきれいな言葉で言語化されたビジョンやイノベーティブな戦略を打ち出すことより、もしかしたら、今の自分に求められているのは、各人の努力と誠意をしっかり受け止め、承認していくことなのかもしれない。「もっと褒めてください」とメンバーに言われた一言をきっかけとした外的自己認識から得た気づきの一つだ。髙橋社長は、自分は何者かを探った。そして、本当に目指したい組織のあり方と自身の言動とのギャップを認識した。
「これ、全部、私のせいですね。気恥ずかしいけど、感謝を伝えてみます」と私に宣言した。これからダイナミックでハートフルな組織がまたうまれることが強く期待される。
リーダーが変われば、組織は変わる。
これは、私がスポーツでの現場、教育の現場、ビジネス現場問わず、大切にしているリーダーに向けた言葉である。
「結局、私が原因でした。私自身が変わります」という自責の言葉がリーダーから出たとき、確実に変革が起こる。
一旦他者の目線となって自分を見つめ、外的自己認識を高め、歪みを修正していく。こうしたプロセスを経て、リーダーは自己成長からチームの成長を促すのだ。全ての出発は、正しい自己認識である。
著者の強いメッセージの一つは、自己認識に終わりはなく、自分の能力やふるまいに対するフィードバックを積極的に他者に求め、常に謙虚に学び続けることが大切だということ。
簡単ではないが、本書を通じて、少しでもそのきっかけを掴んでほしい。
さあ、共に始めよう。「私は一体何者なのか?」の旅を。
チームボックス代表取締役/日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター
1973年、福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部に入学し、ラグビー蹴球部に所属。同部主将を務め全国大学選手権で準優勝。卒業後、英国に留学し、レスター大学大学院社会学部修了。帰国後、三菱総合研究所入社。2006年、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。2007年度から2年連続で全国大学選手権優勝。2010年、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチも兼務。2014年、チームボックスを設立。著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。