ソーシャルメディアは自己認識を困難にする
この二つには相関関係はなく、また、両方とも誰でも手に入れられるスキルだと著者は言い切る。この両者が共に高い状態が、自己認識が高い状態であり、そのような人たちは幸福度が高いとされている。逆に、自己認識に欠けた人は自分のキャリアに満足していない可能性が高い。自己認識に欠けた彼らは、「自分は優れている」、「自分は自己認識がある」と勘違いをしている。
本来、我々は自分のことは見えていない。だから他者からのフィードバックが必要だ。しかし、ついついバリアを張って、都合のよいフィードバックのみを受け取ってしまう。多くの人にとって厳しくつらい真実のフィードバックより、自己欺瞞な状態でいるほうが楽だからだ。
また、最近のテクノロジーの進化によって、我々は膨大な情報をスピーディーに入手でき、さまざまネットワークを構築することができるようになった。一方で、自己への勘違いを引き起こす要因にもなっている。
例えば、そもそもは人と人との関係性を維持するために生まれたソーシャルメディアは、セルフプレゼンテーションが主流になっているという。スマホでの自撮りなどのセルフプレゼンテーションは、自分に集中しすぎるあまり、友人たちを実は不快にさせていることを気づかなくさせ、「いいね」が減っていることにも気づかなくさせてしまう。ソーシャルメディアの影響によりますます自己認識が難しい時代に突入しているのだ。
だからこそ、本書のメッセージを真摯に受け止め、実践することが重要なのだ。
コーチング研修で徹底的に反復する内容
現在、私は公益財団法人日本ラグビーフットボール協会で、コーチングディレクターとして「コーチのコーチング」を行っている。世界で勝てる指導者を発掘・育成し、ユース世代の日本代表を強化するのが仕事だ。また、グローバルリーダーを輩出するための中長期的なマネジメントトレーニングを提供する株式会社チームボックスの代表取締役でもある。私自身の日本代表監督や経営者としての経験も活かし、競技や業界の枠を超えて、リーダー育成や組織開発に日々、没頭している。
私の専門であるコーチング分野では、コーチが身につけるべき能力を4つの枠組で説明している。1つ目はプロフェッショナル(=専門的)能力。2つ目は、インターパーソナル(=人間関係構築)能力で、他者との良好な関係を築く上で必要な伝達力、質問力、共感力など。3つ目は、イントラパーソナル(=自己認識)能力であり、まさに本書のテーマだ。4つ目は、フィロソフィー(=自身の哲学)で最終段階である。
これまでの経験から、全ての土台となるのは、3つ目のイントラパーソナル(=自己認識)であると私は考えている。自分のことを正しく理解すること。簡単そうで、意外に難しい。自分のことなので、誰しもができて当たり前だという認識があるからか、学校や会社ではその正しいやり方をほとんど教えてくれない。よって、私が管轄するコーチング研修では、徹底的に反復しなければならない領域となる。