ゴーン氏の「世論を味方に付ける」戦略

焦点は、「異例の保釈」によって、ゴーン氏は無罪になる可能性が高まったのかどうかだ。日本の司法の通例だと、無罪を主張し検察と全面対決した場合、被告が負けると執行猶予は付かないケースが圧倒的で、実刑判決を食らうリスクが高まる。裁判官は抗弁する被告を「反省の色が微塵も見られない」と判断するのだ。

また、裁判の過程でも、徹底抗戦すれば、裁判官の「心証」を悪くする、としばしば言われる。だから、初めから罪を認めてしまった方が良い、というムードが日本の司法界では根付いているわけだ。

ゴーン氏側は今後、世論を味方に付けることで、検察にプレッシャーをかける戦略に出るだろう。当然、反論の記者会見も行うことになる。ゴーン氏が発言すれば、日本のみならず世界のメディアが確実に取り上げるので、影響力は甚大だ。

外国人は「囚人服」と見たかもしれない

弁護士が大物ヤメ検の大鶴基成弁護士から、人権派の大物で「無罪請負人」の異名も取る弘中惇一郎弁護士に代わった途端、保釈を勝ち取ったことで、ゴーン氏側も勢いづいていることだろう。だが、世の中の世論を味方に付けるという点で、保釈の最初から「失敗」を犯した。

保釈時の「変装」だ。反射板まで付けた作業服までゴーン氏に着せ、はしごを乗せた軽自動車に乗り込ませたアイデアは弘中氏によるものではなかったと思いたいが、身のこなしがどう見ても作業員ではなかったため、瞬時にメディアに見透かされた。全面無罪を主張するのなら、堂々と背広姿で出てくれば良いものを、何を狙ったのであろうか。

森友学園の籠池前理事長は拘置所から出る際に、背広姿で、なおかつ拘置所に一礼してそこを後にした。そこからは、「国策捜査だ」として裁判で徹底抗戦する覚悟が感じられた。ゴーン氏と真逆の対応だったのだ。

ゴーン氏の保釈の様子は全世界に伝播した。外国人は作業服を「囚人服」と見たかもしれないので、あんな格好をさせられてゴーン氏のプライドを傷つける日本の司法はけしからん、という印象を持つのかもしれない。そこまで考えての演出だったとすれば、弘中弁護士は並大抵ではないということになるかもしれない。