中国での生活に不可欠となったAlipayとWechat Payment

大和総研編著『FinTechと金融の未来』(日経BP社)

では、既存の金融業の代表である銀行業において、金融イノベーションの具体的な例をみてみよう。まず、銀行の機能はどんな要素で構成されているかを知る必要がある。その金融イノベーションがどの分野の隙間を埋め、どれほどの破壊力があるかを予想するためだ。

銀行業は「金融仲介機能」「信用創造機能」「決済機能」の三つの要素で構成されている。三つの要素のうち、ここでは「決済機能」に着目する。決済機能とは預金口座間の振替や送金で企業間や企業と消費者間の商取引や公共料金の支払いができる仕組みである。

決済機能分野におけるフィンテックの代表選手であるモバイル決済サービスの主戦場は新興国にある。既存の金融機関による金融サービスが成熟していないため、代替的な決済手段を提供するフィンテック企業が活躍できる隙間が大きいためだ。

例えばスマートフォン決済が増加する中国では、2017年時点で5億人以上の利用者を抱えるAlipay(2004年に登場した第3者決済サービス)、最近利用者が増えているWechat Payment(テンセント)が、小口決済サービスのグローバル・プラットフォーマーとしての地位を固めている。

両者の小口決済サービスとも、利用者である購入者と請求者の手数料負担が小さい仕組みが、利用者数の大幅な増加につながっている。具体的には(1)購入者が事前に決済アプリ上のアカウントに銀行などから資金をチャージし、(2)購入者がアプリを用いて決済送金の指図を行い(購入者もしくは請求者のいずれかのQRコードの読み込みでも行える)、(3)第3者決済機関(例えば、Alipay)のアカウントに送金するという仕組みを取っている。基本的には即時に送金・決済がなされ、購入者の請求者も手数料は徴収されないか、もしくは非常に少額になっている。

さらにクレジットカード、携帯電話代金、光熱費などの生活費、配車サービスアプリの滴滴行車など幅広い決済に対応できる利便性を持つ。よって中国における生活費の決済は、概ね両社の決済を通じて行うことができる。両者に代表されるスマートフォン決済は、生活に不可欠な決済手段として中国社会にすでに根付いている。