日本の金融サービスはガラパゴス化しやすい

フィンテックの将来をどう見たらいいのだろうか。一つの重要なポイントは「地域差」にある。 先進国ではフィンテックが提供する金融サービスと類似したサービスや規制がすでに存在しており、新しい金融サービスの発展は、利便性や効率性においてどれだけ既存の金融サービスを凌駕しているかにかかってくる。これに対して新興国では金融サービス自体が未熟なため金融ニーズが満たされていない隙間が広大に広がっており、 フィンテック企業が提供する金融サービスの成長の余地が大きいと言える。

各個別事例や金融サービスの発展度合いの差が生む地域差から得られたインプリケーションを基に、日本におけるフィンテックの現況を整理したい。日本におけるフィンテックは他の先進国に比べても遅れているという意見もあるが、われわれの主張は必ずしも遅れているとは言い切れない、というものである。

日本では、金融機関等が早期にテクノロジーを積極的に導入してきた経緯がある。例えば、少額決済分野に関しては2000年代前半には交通系・流通系の電子マネーが登場し、日本全国で普及してきた。つまり、決済機能の分野のみならず、日本の金融業の隙間は小さく、フィンテック企業は既存の金融機関との協業を前提とするプロセス・イノベーションが主となる傾向がある。

ただし、日本の人口や言語圏は大きくなく、金融サービスがガラパゴス化しやすい。電子マネーがその典型である。テクノロジーは日進月歩であり、その活用は継続的に検討されなければならないが、テクノロジーを活用して新たな金融サービスを提供しようとしても売り上げが見込めなければ投資も限定的になりうるだろう。世界でフィンテックによる金融ビジネスの刷新が急速に進む中で、日本の金融機関はテクノロジーを活用しながら稼ぐ力を強化するための“発想力”が求められる。

矢作 大祐(やさく・だいすけ)
大和総研 金融調査部 研究員
2012年、大和総研入社。2013~2015年、財務省国際局国際機構課に出向。2016~2017年、中国国務院傘下の中国社会科学院金融研究所に訪問研究員として在籍。2017年10月より現職。金融機関のビジネスモデルやFinTechに関する分析に従事。主要著書は『明解 日本の財政入門』金融財政事情研究会 共著)。『FinTechと金融の未来』(日経BP 共著)など。
(写真=iStock.com)
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