日本では「男の子のプリキュア」が誕生している

一方の日本はどうでしょうか。先ごろ2018年度のジェンダーギャップ指数が発表されましたが、日本は149カ国中110位という、たいへん低い水準でした。大学受験における女性差別も次々と発覚しています。この国で「プリンセスver.3.0」なんて、夢のまた夢だと思われるかもしれません。

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しかし、光明はあります。『シュガー・ラッシュ:オンライン』と同じくアニメの世界で。2018年12月2日に放送された女児向けTVアニメ『HUGっと!プリキュア』において、男の子のプリキュアであるキュアアンフィニが誕生したのです。14年続く「プリキュア」シリーズにおいて、史上初の“快挙”でした。

それまでのシリーズでは、問答無用で「女の子が変身した戦士」がプリキュアでした。しかし、多様な性のありかたや志向のありかたの議論が活発化し、決められたジェンダーイメージの枠にとらわれない生き方が少しずつ許容されつつある時流を敏感に察知した製作陣は、きっとこう考えたのでしょう。「そもそも、どうして女の子しかプリキュアになれないんだろう?」。

「なんでもできる! なんでもなれる!」

「プリキュアは女の子にしかなれない」という、今まで当たり前だと思われていた“常識”は、「レースでは1位を目指さなければならない」「決められたコースを走らなければならない」「プリンセスはドレスを着て王子様を待たなければならない」と同じ類いの、旧世代の“常識”です。ヴァネロペのように、それらを一度全部取り払い、ゼロベースで考えてみた結果が、キュアアンフィニの誕生でした。

ちなみに『HUGっと!プリキュア』の合言葉は「なんでもできる! なんでもなれる!」。ヴァネロペが望んでやまない「オープンワールド」の考え方そのものです。

もちろん、旧来的な価値観が支配する現実世界で新しい価値観が受け入れられるのは、並大抵のことではありません。しかし、『シュガー・ラッシュ:オンライン』や『HUGっと!プリキュア』を観た子供たちは、これからの社会を、世界を、自由で寛容な「オープンワールド」へ変えていくことを志すはずです。

稲田 豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター
1974年、愛知県生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。編著に『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、編集担当書籍に『押井言論 2012‐2015』(押井守・著、サイゾー)など。
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