“プリンセス”の概念をドラスティックにアップデートした
さらに、製作会社であるディズニーが保有する強力なIPを最大限に活用し、作品をまたいだ“オールスター大集合”を実現することで、個々の作品ファンのテンションを上げることにも成功しています。たとえば『スター・ウォーズ』シリーズ、『アイアンマン』『ズートピア』など。なかでも、予告編でひときわ観客の興味を引いていたのが、楽屋裏とおぼしき場所で一堂に会している歴代のディズニープリンセスたちと、ヴァネロペとの絡みです。
筆者は、『シュガー・ラッシュ:オンライン』が前作超えの初動とその後の好評をキープしている理由が、ここに集約されていると感じました。本作は“プリンセス”の概念をドラスティックにアップデートしました。この点がとにかく“エモい”のです。
ディズニープリンセスとは、ディズニーアニメに登場するお姫様キャラクターの総称です。『シュガー・ラッシュ:オンライン』には、白雪姫、シンデレラをはじめ、『リトル・マーメイド』のアリエル、『塔の上のラプンツェル』のラプンツェル、『メリダとおそろしの森』のメリダ、『アナと雪の女王』のアナとエルサ姉妹など、総勢15人が登場します。
前作のラストでは、ヴァネロペが「シュガー・ラッシュ」の王女だということが判明しました。よってこの15人と同様に、ヴァネロペも一種の「プリンセス」。このことが本作では重要な批評性を帯びてくるのです。
「ありのままの自分の肯定」で更新が止まっていた
実は、ディズニープリンセスは作品が発表される時代に呼応して、その内面描写が少しずつアップデートされてきました。
『白雪姫』(37)や『シンデレラ』(50)の頃のプリンセスは、基本的には王子様に救われるだけのか弱い存在でした。彼女たちのゴールは「王子様との結婚」。これを「プリンセスver.1.0」とします。
『リトル・マーメイド』(89)以降、プリンセスたちはお仕着せのお姫様イメージを嫌い、自分の意志で行動して運命を切り開くキャラクターとして描かれていきます。その究極型はおそらく『アナと雪の女王』(13)でしょう。「ありのままの自分」を肯定し、お仕着せのプリンセス像からの脱却を目指す。彼女たちのゴールは「今の境遇における自分らしさの獲得」。これを「プリンセスver.2.0」とします。
プリンセスver.2.0は、アメリカに端を発する世界的な女性の地位向上、言い換えるならばポリティカル・コレクトネスの象徴として、着々とバージョンアップを重ねてきました。ただ、それでも「カップリングを期待される異性の存在」「血統に対するしがらみ」の両方、もしくはいずれかが、常について回っていたので、ver.2.99あたりで更新は止まっていたというのが実情です(※)。
※評論家の荻上チキさんは2014年の著書『ディズニープリンセスと幸せの法則』で、『アナと雪の女王』までのディズニープリンセスを「ディズニーコード1.0~3.0」と3つに分類していますが、本稿では『アナと雪の女王』までを2つに分類しました。