ゴールは「完全なる自由意志による生き方の決定」

異性のカップリングにも血統にも悩まない。ドレスも着ない。では、プリンセスの要件とは一体なんなのでしょう。おそらく、ディズニーの答えはこうです。誰もが、どんな場所でも、プリンセスたりうる。もはやプリンセスとは、所属・年齢・外見は問わない、「自分がもっとも輝ける場所で輝く」概念自体である、と。

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ヴァネロペは、プリンセス観に大幅なアップデートを施し、プリンセスのバージョンを2.99から一気に3.0へと押し上げました。「プリンセスver.3.0」、そのゴールは「完全なる自由意志による生き方の決定」とでも呼ぶべきものです。

しかし、既存ではなかった価値観には、えてして周囲が抵抗や反発を示すものです。80年代のゲームキャラである“古い考え”のラルフは、ヴァネロペが「オープンワールド」に惹かれる気持ちを、なかなか理解できません。

旧世代の価値観との衝突、理解、共存までを描く

ラルフはインターネットの世界に対して当初から「怖い」という印象を持ち、オープンワールドを「危ない」と形容します。これは、現実の旧世代がなんとなく抱く「ネットは怖いところ」という印象そのものです。新しく出現した価値観に対して旧世代が抵抗するのは、世の常。『シュガー・ラッシュ:オンライン』ではそれを、「旧世代のラルフと新生代のヴァネロペとの間に生じる価値観の衝突」という構図によって、巧妙に問題提起したのです。

筆者はここに、“セクシャルマイノリティ”と呼ばれている人々が直面している葛藤の比喩を見いだしました。なぜなら本作は、新しい価値観で生きることを決意した者(ヴァネロペ)に対して、周囲の近親者(ラルフ)がどのように戸惑い、どのように受け入れようと努力するのか、という過程も描いているからです。

そのうえで本作は、旧世代の価値観を否定しません。その象徴が「歌」です。歴代ディズニープリンセスたちは自分の作品内において、突然ミュージカル調に歌い出すのがひとつの定番となっており、本作でもメタ的にその不自然さをヴァネロペに突っ込まれますが、ヴァネロペはある重要な気づきを経て、自分なりに歌を歌うことの意味を発見します。つまり、旧世代の価値観を否定するのではなく、再解釈を成し遂げる。見事な発展的共存です。

プリンセス概念の劇的な更新、新しい価値観を受け入れようとする周囲の葛藤、旧来的な価値観の再解釈――。それらを全部まとめて「ファミリー向けアニメ」の枠組みでやってのけるアメリカは、ハリウッドは、やはりすごいと言わざるをえません。『シュガー・ラッシュ:オンライン』は、前作とはまた別の意味で「ただの子供向けファミリーアニメではなかった」のです。