なぜ「大阪オリンピック」は惨敗したか?

これくらいの話だと、その辺の学者や3流コメンテーターが言っていることと何ら変わりないので、知事・市長経験のある僕があえて言うとすれば、今回の大阪万博決定の最大の成功要因は、やはり大阪都構想の思想だったと断言できるということだ。実際、大阪都構想は2015年5月の住民投票で否決されたが、やはり大阪都構想を実現することこそが、大阪において必要不可欠であることがはっきりした。

万博という超ビッグプロジェクトを動かすには、その巨大な歯車を動かす最初のひと押しが重要で大変なことなんだ。歯車が動き出せば、あとは勢い。日本政府や与党自民党、そして経済界が一丸となって動き出したのは、歯車が動き出して勢いが付き始めてからのことだと言える。

静止している巨大な歯車を動かそうと思えば、まずは地元大阪において万博誘致方針をきっちりと固めなければならない。そして誘致方針を固めた後は、日本政府を動かす強烈なひと押しが必要になる。

ところが、これまでの大阪府と大阪市の関係では、万博誘致の方針など絶対に固めることはできなかった。

万博誘致そしてIR誘致の会場は、さっきも述べたけど、夢洲という大阪湾岸部の巨大埋め立て地。土砂を埋め立てるお金もなく、埋め立てが途中で放ったらかしになり、今でも水が貯まっている状態だ。関空の航路下にこの寂れた巨大埋め立て地があるので、関空を利用する外国人は、飛行機の窓から眼下に広がるこの埋め立て地を見て、大阪はスラム街かと感じるかもしれない。ここは長年、大阪の負の遺産としてその活用方法に悩んでいた。この埋め立て地の周辺にも埋め立て地があるが、どれも当初の夢のような計画通りには進まず、冴えない湾岸部となっている。東京のお台場とは大違いだ。

この埋め立て地は、大阪市港湾局が所管している。すなわち大阪市長、大阪市役所に権限がある土地だ。歴代の大阪市長や大阪市役所は、この使い道をあれこれ考えてきたけど、役人が考えることには限界がある。役人は、現状の法制度を前提としてできることを考える。役人には、これまでの方針を大胆に変え、日本政府を動かし、さらには新たな法律を作って現状の法制度を作り変えることまでして、とんでもないビッグプロジェクトを実行していく力はない。それは政治の役割だ。役人の力は、決められた方針の中で、具体案を精緻に作っていくことに発揮される。

あの390ヘクタールを超す巨大な埋め立て地を有効活用するには、大阪市役所の役人が考えるような案では起死回生は図れない。かといって、大阪市長や大阪市議会議員の政治力では日本政府も関西の経済界も、ましてや府民全体が動くということはない。ここが大阪市長、大阪市議会議員、大阪市役所が最も勘違いしているところで、大阪衰退の最大の原因なんだよね。確かに、大阪市役所の、役所として持っている権限や扱える予算規模は、東京都庁に次ぐ2番目の大きさだ。だから大阪市長、大阪市職員、大阪市議会議員は大阪市には力があると錯覚してきた。しかし、大阪市が持っている力とはしょせん法制度によって与えられた力、すなわち「行政の力」に過ぎない。他方、大阪全体、日本全体を動かすのに必要な力とは「政治の力」であって、この力は、大阪市長、大阪市議会議員、大阪市役所にはないんだよね。

大阪市は、行政の力はあるかもしれないが政治の力はない。ところが、大阪市は、なまじっか行政の力を持っているので、自分たちで何でもできると勘違いし、大阪府と力を合わる必要性を感じてこなかった。

かつて2008年のオリンピックを大阪へ招致するために、大阪市は全エネルギーを注いだ。ところが、このオリンピックは、「大阪市」主催であって、大阪府や大阪府内の市町村は知らん顔だった。大阪市長、大阪市役所、大阪市議会議員、大阪市内の関係団体は必死になっていたが、日本政府や経済界はおろか、大阪市のお隣、近くの市町村、そして関西の自治体も我関せずという状態。

結果は、大阪市は世界IOC委員102票のうち、6票のみ獲得。自分の一票を除けば、世界からは5カ国にしか支持してもらえなかった。大惨敗。これが大阪市単体の力なんだよね。ちなみにこのとき開催が決定したのは北京オリンピックだった。

他方、2020年の東京オリンピック。こちらは1380万人東京都で勝負。1380万人が一致団結したときの力は凄まじい。東京の経済界のみならず、日本政府も、日本の経済界も動かした。このような巨大なプロジェクトをやるときには、やっぱり都市の力、役所の力、首長の力、すなわち総合的な政治の力がものをいうんだよ。これが現実。

じゃあ、大阪における巨大プロジェクトを進めるのに、880万人大阪府、大阪府知事が旗を振ればなんとかなるのか? これが、なんとかならなかったのが、これまでの大阪だった。

(略)