もちろん、労働組合は安易な解雇には抵抗するし、いざ人員削減を受け入れざるを得ないときは、十分な補償措置を要求するし、政府がさまざまなセーフティーネットを整備していることが前提でもある。しかし、そうした前提があるがゆえに、労働組合は事業上の理由による雇用調整そのものには反対しないのだ。

残業を想定しない労働時間を前提

雇用調整が比較的容易に行える結果、残業を想定しない労働時間を前提にしたうえでの、必要人員数が確保されることになる。また、不採算事業は比較的スムーズに整理され、その分一定レベル以上の生産性の事業しか残らない。そもそも生産性が高いわけで、長時間労働を行う必要性がないわけだ。

これに対し、わが国では雇用調整が難しいため、従業員はギリギリの人員数に抑え、景気拡大期には残業が当たり前になってきた。景気後退期には残業を減らし、それを雇用調整のバッファーにしてきたのである。また、不採算事業の整理が難しいため、その分生産性が低くなり、薄利多売ビジネスから業務量が増え、その結果長時間労働が常態化してきた面もある。

以上のように見れば、働き方改革ははじまったばかりであり、今回の法改正はあくまで出発点にすぎないことがわかる。重要なのはそれを起点にして、さまざまな仕組みを継続的に見直していくことである。(後編に続く)

(※3)藤内和公(2013)『ドイツの雇用調整』法律文化社、247頁

山田久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 理事/主席研究員
1987年京都大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。93年4月より日本総合研究所に出向。2011年、調査部長、チーフエコノミスト。2017年7月より現職。15年京都大学博士(経済学)。法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科兼任講師。主な著書に『失業なき雇用流動化』(慶應義塾大学出版会)
(写真=iStock.com)
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