「よかったですね、がんになって」と話す理由

カウンセリングの現場で、がん患者に「よかったですね、がんになって」と話すことがあります。「一休みして生き方を改めろという意味かもしれませんよ」「あのままなら忙しくて脳卒中で死んでいたかも」。患者さんにはない見方ですから、すぐに信じられなくて当然です。「そうはいっても」と言いながら帰っていきます。

でもしばらくすると本当に「がんになってよかった」と思えてくるのです。終末期にある患者さんもほとんどすべての人が「がんになってよかった」と口にします。「がんになってからの人生のほうが味わい深かった」「人にも優しくなれた。弱い人の気持ちもわかるようになった」。ものの見方というものは、これほど人の気持ちを変えうるのです。

こうした知見は心理学の領域。60歳を過ぎて、人間や人生を考えるにあたって、心理学、特に認知療法を学ぶのも面白いかもしれません。

過去や未来ではなく、「今、ここ」を意識する(PIXTA=写真)

「今、ここ」という考え方もワクワク・ドキドキをつくり出す助けになります。元気に働けない人は、仕事が変わった、収入が減ったという事実を、単に「喪失感」として受け止めています。

そういう人は定年を迎えても「私は聖路加にいた保坂と申します」「○○商事で部長をしていた○○です」と自己紹介してしまう。「昔はこうだった、ああだった」と過去を引きずり、肩書を捨てられないのです。過去は過去として忘れ、「今、ここ」に向かえるかどうか。元気な老後は、肩書のない人生を始められるかにかかっています。

定年後の「仕事」とは、50代、60代の方が考えていた「仕事」とは違うものになるかもしれません。最近、クリニックの一室を患者さんに貸し出すことがあります。というのも、がんを克服した患者さんは後輩のために何かしてあげようという気持ちになるんですね。