大相撲史上初の外国出身横綱だった曙太郎さんが、今年4月に死去した。54歳だった。ライターの広尾晃さんは「力士の平均寿命は他のスポーツ選手よりかなり短い。相撲界の将来のために、日本相撲協会はこの状態を放置してはならない。現役だけでなく親方衆など元力士の健康管理をすべきだ」という――。
元横綱・曙と、息子の洋一さんを抱く行司
写真=AFP/時事通信フォト
2001年9月29日、東京・国技館で断髪式前の最後の土俵入りを行うハワイ出身の元横綱・曙と、息子の洋一さんを抱く行司(右)。

私が愕然とした衝撃のデータ

今年4月、元横綱の曙太郎が心不全のため東京近郊の病院で死去した。54歳だった。人生100年時代と言われる時代だが、力士の「早世」は目新しい話でも何でもなくなっている。

ここ2年では、6人の元幕内以上の力士が死去している。

2022年
7月16日 元横綱 二代目若乃花幹士 69 肺がん(数字は享年、以下同)

2023年
11月2日 元大関 四代目朝潮太郎 67 小腸がん
12月17日 元関脇 寺尾常史 60 うっ血性心不全

2024年
2月24日 元前頭筆頭 琴ヶ嶽綱一 71 心不全
3月10日 元関脇 明武谷力伸 86 老衰
4月上旬    元横綱 曙太郎 54 心不全

日本人男性の平均寿命は81.05歳と言われるが、6人のうち5人は、それよりはるかに若い享年になっている。

筆者は十代の頃から大相撲の本場所に通っていた。ちょうど大横綱の大鵬幸喜が引退する時期で、北の富士、玉の海の「北玉時代」から初代貴ノ花と輪島の「貴輪時代」、さらには、北の湖が台頭して、無敵になるのを夢中になって観ていた。試みに今から44年前の1980年夏場所の幕内力士の現在の生死について調べて、愕然とした。

1980年夏場所 番付から ●は物故者

横綱:●北の湖、●二代目若乃花、●輪島、三重ノ海
大関:●初代貴ノ花、二代目増位山
関脇:●荒勢、琴風
小結:●朝汐、●千代の富士
前頭:鷲羽山、●麒麟児、●玉ノ富士、●栃赤城、高見山、巨砲、●蔵玉錦、●黒姫山、魁輝、出羽の花、●鳳凰、●天ノ山、黒瀬川、青葉城、●照の山、闘竜、●隆の里、●青葉山、●蔵間、●栃光、富士櫻、●満山、●豊山、三杉磯、神幸、舛田山

同時代のプロ野球選手と比較すると

幕内力士36人の内、すでに58%にあたる21人が物故している。現時点で、1980年当時の幕内力士で物故した力士の没年は平均57歳。大相撲親方の定年は65歳だから、多くは定年前に世を去っているのだ。

この場所当時の幕内力士の平均年齢は、28.2歳であり、44年後のいまでは72歳前後になる。平均寿命よりも9歳も若いから、一般的には存命者の方が多いはずなのだが。

同じ1980年のプロ野球、セ・パ両リーグで規定打席に到達した66人(セ30人、パ36人)を調べてみると、亡くなっているのは9人(13.6%)、存命者は57人だった。この年のセの首位打者は中日の谷沢健一、パはロッテのレロン・リーで、巨人の王貞治がこの年限りで引退。現阪神監督の岡田彰布の名前もランキングにある。

66人の当時の平均年齢は30.1歳と大相撲の幕内力士よりも高齢だったが、44年後も86%の57人が存命。存命者の平均年齢は74歳だから、後期高齢者になる前であり「生きていて当然」と言う年齢でもあるのだ。

【図表1】1980年に現役だった力士とプロ野球選手の比較
幕内と十両をあわせて計算しても、45%が既に死去している。