なぜ力士は短命なのか

力士の短命は、戦後になって顕著になってきた。

日本相撲協会が公認している歴代横綱は73人いる。このうち生没年がはっきりしているのは70人。存命者を除く56人の寿命を調べてみた。

江戸時代に生まれた14人(1760~1866 谷風から初代小錦)の平均没年齢は58歳、
明治大正期に生まれた25人(1869~1923 大砲から鏡里)は57歳、
昭和期以降に生まれた17人(1925~69 栃錦から曙)は63歳

と少しは寿命が延びている(生没月日が不明の横綱がいるので、数字は概算)。

しかし、日本人男性の平均寿命は1955年には63.60歳だったものが90年には75.92歳、そして2022年には81.05歳と急速に伸びている。

かつては横綱の寿命は、日本人男性の平均より少し短い程度だったのが、今では18年以上もの差になっているのだ。

63歳と言えば、まだ年金受給年齢に達しない。一般社会では現役で活躍する人も少なくない。この年齢で亡くなるのは「短命」だと言わざるを得ない。

なぜ力士は短命なのか? 多くの医療関係者が指摘している通り根本原因は肥満だ。

土俵
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巨大化が進む大相撲

2024年3月場所の大相撲幕内力士の平均身長、体重は184.5センチ、160.4キロ、今年開幕時点でのプロ野球選手の平均は181.0センチ、85.9キロ。BMIは力士が47.1(肥満度4)、プロ野球選手は26.2(肥満度1)だった。

筋肉量が多いアスリートは、BMIは「やや肥満」になるとされるが、BMI47.1は重度肥満であり一般人であれば「肥満症」と診断されることもある。

実はこの40年ほどの間に、大相撲力士の巨大化はさらに進んでいる。冒頭で紹介した1980年夏場所の幕内力士の平均身長、体重は183.3センチ、135.3キロ、BMIは40.3。身長はほとんど変わらず体重は19%増加したのだ。

かつて大相撲力士はあんこ(肥満体)、そっぷ(やせ型)など体型で分類したものだが、今の力士はあんこか、超あんこしかいない。

体形の変化は相撲の決まり手にも影響が出ている。かつては大型力士が小兵力士を釣り上げて土俵外に出す「つり出し」などの「つり技」や、「投げ技」が多く見られたが、今の大相撲では「押し出し」「寄り切り」「突き落とし」「はたきこみ」などの押し技、引き技がメインになり、特に「つり出し」は絶滅危惧種のようになっている。

1980年時点での幕内力士でさえも、すでに6割弱が物故していることを考えれば、さらに巨大化した今年の幕内力士の寿命はどうなるのだろうか、と暗澹たる気持ちになる。