62キロ→150キロに巨大化した白鵬

力士の巨大化の背景にあるのが、外国人力士の増加だ。外国人力士の先駆者は1980年夏場所の番付で前頭3枚目にいたハワイ出身の高見山大五郎だ。1972年7月場所で高見山は外国人として初優勝をし、引退後は年寄東関として横綱曙を育てた。

それ以降、ハワイだけでなくモンゴルやヨーロッパなどから力士志望の若者が相撲界にやってきた。彼らの多くは自国でトップアスリートだったので番付を駆け上がることが多いが、同時に体格も日本人より上回っていることが多かった。これに対抗するために、日本人力士も大型化する必要が生じ、力士全体の巨大化が進んだのだ。

今は、大学、高校相撲部出身などで、150キロ超の巨体で入門する新弟子も多いが、一般人と変わらない体格の新弟子でも入門すると急速に巨大化することが求められる。

大横綱白鵬は、入門時62キロだったが、横綱昇進時に155キロになったのはよく知られている。トレーニングをして筋肉をつけていくのならともかく、今の相撲界は、昼と夜の2食(大相撲では朝は稽古があるので、原則として朝食抜き)で、ちゃんこを中心に高カロリーの食事を大量に摂取して太らせるのが基本になっている。

明治中期まで相撲界は、食事と言えば辛子味噌や沢庵など味の濃い少量の副菜と大量の米を食べて力士を太らせてきた。栄養価が偏ると憂慮した明治の大横綱常陸山が、有識者のアドバイスを得て野菜、肉、魚などをバランスよく食することができる「ちゃんこ」を考案したとされる。

もともと、ちゃんこは栄養食だったのだ。これによって「かっけ」に罹る力士は激減したといわれる。

現役力士の糖尿病率はそれほど高くない

しかし外国人力士の加入や、近年の若者の食生活の変化もあって、ちゃんこにもバターやチーズ、大量の肉などを入れるようになり、ちゃんこも超高カロリー食に変わりつつある。エスニック風の味付けも多くなり、塩分も増えている。また夜には「タニマチ(贔屓筋)」に連れられて焼き肉店で大量の肉を食べる力士も多い。

こうした「過激な栄養摂取」によって、力士はどんどん巨大化しているのだ。

日本相撲協会は両国国技館内に「日本相撲協会診療所」というクリニックを併設している。ここでは力士のけがの応急処置や健康管理を担っている(一般人も利用可能)。

1964年に所長に就任した林盈六医師は、力士の健康に関する研究を多年続け1979年には『力士を診る』(中公新書)という本を出した。45年も前の本だが、今も「力士と健康」について話すときには引き合いに出されるような「名著」だ。この本は、すでに力士が短命に終わるメカニズムを説明している。

急激に「巨大化」する力士だが、現役力士の糖尿病の罹患率はそれほど高くない。林医師が診ていた約50年前は「数値ギリギリ」の力士も含めて10~12%という。(今のデータは発表されていないが食生活を鑑みるにそれよりは高いだろう)

それは、10代、20代の若い力士は高カロリーを摂取する分、激しい稽古をするからだ。20代後半から30代になって稽古量が落ちると糖尿病の罹患者が増えていく。

多くの力士は、引退時には糖尿病や痛風などの生活習慣病を罹患している、もしくは限界値くらいにはなっている。一番の問題は、引退後なのだ。

ソファで寝ている太った男
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