二大葛藤要因は債権回収とキックバック
今日、中国市場で求められているのは何かというと、柔軟性と行動力のある人材だ。成熟した日本市場とは違い、中国市場では常に臨機応変な対応と決断が迫られる。「中国社会は変化が速く、過去の駐在経験者のアドバイスが通じない。場合によってはそれが混乱を生むことさえある」(現地駐在員)。
では、中国駐在員のメンタル対策はどうあるべきなのだろう。
「つまるところ、駐在員のメンタル不調は業務上の葛藤にある。その要因をいかに軽減するかが要諦だ」と佐野医師は語る。その「業務上の葛藤」について、中国進出企業へのビジネスサポートや赴任前研修を行うA-commerceの秋葉良和代表取締役は「中国での業務上の二大葛藤は、債権回収とキックバックの常態化だ。それにどう対処するかに尽きる」と指摘する。
日本ではおよそ信じられない話だが、中国ローカル企業では取引先への支払いを期日よりどれだけ遅らせられるかで営業マンが評価されるという慣行がまかり通っているため、債権回収が悩みの種となっている。また多くの中国人営業マンが個人裁量で当然のように営業先からキックバックを得ており、こうした「ありえない」慣行の処理に日本人駐在員は苦悩してきた。
だが、「こうしたことも、中国が世界の工場だった時代から市場へと変わった今日、誰もが向き合わなければならない問題」と秋葉氏は言う。メンタル対策の一環として、中国の商慣行や生活習慣を含めた赴任前研修が必要とされているのはそのためだ。
ここ数年、駐在員へのメンタルサポートを行う企業も増えている。前述のMD.ネットはクライアント企業への次のようなケアサポートを行っている。
(1)渡航前アセスメント
――「渡航前心理チェック」を通して海外適応性、身体症状、ストレス耐性、その他精神障害発症リスク、うつ病発症リスクなどを総合的に見て出向リスクを確認。
(2)安全配慮義務
――企業の産業医やメンタルヘルス担当者への通知、支援。
(3)フォローアップ
――駐在員とその家族への定期的なメール、メンタルヘルスアセスメントの実施。