しかし、こうした動きは国内でのメンタル対策と連動していてこそ意味がある。企業の健康管理業務を代行するメディカルトラストでは、各企業が行う健康診断と事後指導を、ウェブ会議システムを利用して中国の事業所で働く赴任者にも受けられる仕組みづくりに取り組んでいる。
1996年に判決のあった過労死自殺に対する破格な労災補償、いわゆる「電通事件」以降、日本企業のメンタルヘルスの認知度が高まる中、同社では、労働契約法の定める安全配慮義務に則った契約医師による過重労働者への面接・指導システムを構築してきた。とりわけ大企業に比べて対策の遅れがちな小規模事務所への「全国医師面接システム」に力を入れていた。
その狙いについて佐藤典久取締役事業部長は、「小規模事務所があるのは国内だけではない。急速に進む日本企業の海外展開で、実は海外に広がっていた」と言う。さらに、佐藤氏は「駐在員のメンタルケアは、本社の産業医と現地提携医療機関が協力して行わなければ十分な効果がない」と指摘する。メンタル不調者の帰任といったデリケートな問題は、本社の産業医による事態の把握が欠かせないためだ。
中国駐在員のメンタル対策には、精神医学だけでなく、経営状況についての洞察が求められる。中国進出の意義はどこにあるのか。経営戦略が明確に定まらないままの進出が、駐在員の業務上の葛藤を増大させてきた面もあるからだ。こうした取り組みはまだ始まったばかりであるが、「駐在員のメンタル不調は経営リスク」という言葉を、改めて肝に銘じなければならないだろう。