こうした現地事情を理解するうえで注目されるのが、在留邦人向け生活情報誌「Whenever天津」2010年11月号が特集した「駐在員のメンタルヘルス座談会」だ。持田吉彦編集長は企画の趣旨を次のように語る。
「日本では、海外駐在員は住環境に恵まれ、豪遊していると思われがち。日本から出張者が来れば、アテンドと称してカラオケ接待が行われる。でも、実際には日本での想像を超えた事態が起きている。出席者の方々は、中国での労苦やストレスなど、心の叫びを分かち合いたかったのではないか」
4時間に及んだ座談会の詳細すべてを紹介できないが、そこで吐露されるのは、現地駐在員のメンタル不調の実態や、中国ビジネスに取り組むうえでのプレッシャーや当惑ぶりである。
「最近、夜中に目が覚める」「逃げ場がない。相談相手がいないのがつらい」「独り言を言い出したら危ない」「日本で当たり前のことが中国ではそうでない」「本社が確実に右だと決定したことでも、中国では左が正しいことがある」「コンプライアンスも、この国では意味をなさない」「品質管理の意味が現地社員に伝わらない」。
しかし、これを愚痴と片付けるのはあんまりだ。「事情を知らない本社から、なぜ中国で数字が伸びないんだと言われるのがきつい」「本社の無理解は永遠のテーマ」「この感覚は駐在しないとわからないだろう」と半ば諦めながらも、彼らは日本の感覚からすれば不条理ともいえる現場を引き受けているからだ。中国駐在者の間でささやかれている「OKY」(おまえが来てやれ)、「敵は本国にあり」ほど、彼らにとって実感のこもった言葉はないのだろう。