はっきりとした意図を持たず、反射的な思考をして勘違いをしてしまい、ふとしたところで判断を誤ったり、自分の実力が伴わない極めて無謀なチャレンジをしてしまいかねないのです。

私の経験からいっても、脳リミットをはずしてチャレンジを成功させる人ほど、自分の実力を過大評価せず、常に謙虚な人が多いようです。

重要な脳の強化学習モデル「アクター・クリティック法」

そこで、自分の能力をしっかり評価するための、とっておきの方法を紹介しましょう。

いま、脳科学の世界で重要な脳の強化学習モデルといわれている、「アクター・クリティック法」というものです。

アクターとは、「行為者」、クリティックとは「批判者」という意味です。つまり、自分のなかに行為者と批判者というふたつの役割を持って自己認識をすることで、自分の能力を見誤ることなく、チャレンジできるのです。

では、なぜこのアクター・クリティック法を通して自分の限界を超えることができるのか。ここで、私自身を例として、もう少しわかりやすく説明してみましょう。

脳科学を研究する、あるいは原稿を執筆するといった行為者としての茂木健一郎が存在しています。

その行為に対して、冷静に自分を批判する茂木健一郎がいるとします。正確にいえば、批判というよりも「評価する」といったほうが正しいかもしれません。

すると、アクターな自分とクリティックな自分のせめぎ合いによって、自分の思考や行動に対してしっかりと「ダメ出し」ができるようになるのです。

自分にダメ出しができる人こそ、自分の限界を超える!

私たちは時に、つい自分に甘い評価をしてしまいがちです。ですが、自分にダメ出しができる人こそが、自分の限界を超えることができる人なのです。

たしかに、自分に対してダメ出しすることは、自分を否定することでもあるので勇気がいるかもしれません。あるいは、

「アクター・クリティック法? なんだか難しそうだな……」

そう思った人もいるかもしれませんが、安心してください!

というのも、アクター・クリティック法は例外なく、誰もが実践できる脳のトレーニングだからです。

何かのチャレンジにおいて、人それぞれ能力や方法は違っても、自分の考えや行動を演じる自分と、それをしっかりと評価する自分によって、冷静な自己認識力を磨くと、目標をしっかりと定め、その目標に向かって無駄なく行動できるようになります。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者。1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『すべての悩みは脳がつくり出す』(ワニブックスPLUS新書)など著書多数。新著『脳リミットのはずし方』。
(写真=iStock.com イラスト=ohtani masatoshi)
関連記事
デキる人は「やる気」を言い訳に使わない
できない人ほど自分のことを過大評価する
新人社員が読むべき松下幸之助の大金言5
トランプみたいな性格の人はウヨウヨいる
自分だけの「サロン」をつくる簡単な方法