なぜ「何をしても心が晴れない」という人が増えているのか。コミュニケーション専門家のデヴィッド・JP・フィリップスさんは「現代人はドーパミンという快楽を簡単に手に入れられるようになった。その結果、ドーパミン中毒になってしまい、虚無感、気分の落ち込み、最悪の場合にはうつの原因となってしまう」という――。

※本稿は、デヴィッド・JP・フィリップス『最適脳』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

カクテルとフルーツ
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ドーパミンの「ベースライン」は下がっていく

ドーパミンは私たちにどういう影響を与えているのか。〈天使のカクテル〉の視点から見ると、モチベーションや勢い、何かを手に入れたいという欲求を生み、満喫させ、長期記憶にも重要な役割を果たす。正確に言うとドーパミンを合成するニューロンは4種類あるのだが、ここでは報酬を制御するニューロンと、意志の強さや決定など実行機能を制御するニューロンを取り上げたい。

先ほどすでにドーパミンの「ベースライン」という言葉を使ったが、これは非常に重要な概念だ。スタンフォード大学の神経科学者アンドリュー・D・ヒューバーマン教授がわかりやすい解説をしているのでそれを引用すると、ドーパミンは私たちにもっと探させ、学ばせ、向上させるために、活動の「前」と「間」に増えるが、活動「後」はベースラインより低くなってしまう。このベースラインは人によって違うが、ここでは1~10のレベルで5としておこう。

動画を観終わると精神状態が悪化するプロセス

そのレベルが上がるような活動、例えばインスタグラムで面白い動画を観たりすると6まで上がる。しかし観終わるとすぐに4.9まで下がり、その人にもっとドーパミンが増えるものを欲しくさせる。そこであなたはもう1本動画を観る。それも1本目と同じように面白かったが、観始めた時のレベルが低かったので5.9までしか上がらない。しかも観終わると今度は4.8まで下がってしまう。

その調子で動画を観続けてしまい、最後には飽きて、もう面白いと思えなくなる。その頃にはベースラインは4まで下がっていて、動画を観始める前よりも精神状態が悪くなっている。

ただし、必ず精神状態が悪くなるわけではないと思う人もいるだろう。動画を観た方がドーパミンの効果で元気に前向きになれることもある。では、観たらやる気が湧くような動画はどう違うのか。