ネット普及前はスロー・ドーパミンが大半だった

私は講演でよくこう尋ねる。「テレビの娯楽番組やインターネットができる前にやっていたことは、ほとんどがスロー・ドーパミンを出すものでした。皆さんはインターネットができる前には何をしていました?」

返ってくる答えは、人と過ごす、趣味に打ち込む、家で料理をする、本や新聞を読む、ボードゲームをする、家や庭の手入れをする、踊りに行く、創作活動をする、ものをつくる、クロスワードパズルを解くなどだった。

そしてある人がこう答えた時には全員が爆笑した。「好きなアーティストのアルバムを最初から最後まで聴いた!」そう、そうだった――昔はアルバムを最初から最後まで聴いた。新しく買ったCDをうやうやしくプレーヤーに入れ、全員が静まり返り、一曲一曲を堪能したものだった。

しかしそれはもうずっと前のことで、今の私たちは別の世界、クイック・ドーパミンにあふれた世界に暮らしている。そのせいで問題がたくさん起きているが、特にスロー・ドーパミンはエネルギーを要し、自ら動かないと得られないから苦労する。

クイック・ドーパミンならソファに座ってチョコレートを食べるだけでも出せるし(ベースラインから150%もアップする)、他にもファストフードを食べる、テレビドラマを観る、スマホでゲームをする、SNSを見る、ビットコインや株価をチェックする、ネットニュースを読むなどいくらでも手軽な方法がある。

本能的に楽にドーパミンを得ようとする

しかしスロー・ドーパミンを出すには場合によっては相当な努力が必要だ。趣味に打ち込む、クロスワードパズルを解く、ボードゲームをするというのは時間とエネルギーを奪うし、脳はそもそも必要以上にエネルギーを使うことを避けようとする。エネルギーは進化の過程で最も価値のある資源だったからだ。

今度駅やショッピングセンターに行ったら、エネルギー消費の調査をしてみると面白いかもしれない。階段ではなくエスカレーターを使う人が何人いるかを数えるのだ。私はのめり込む性質なので、カフェに座ってメモを取ったこともある。すると大多数が階段よりもエスカレーターを選んでいた。下りでさえもだ。

日常で身体を動かすことがどれだけ大切かは誰もが知っている。それを考えると矛盾した現象だ。しかしながら進化の見地から考えれば当然で、エネルギーを節約するのは食料を蓄えようとするのと同じことだ。食料をたくさん蓄えておけば、危険を冒して食料を集めなければならないことも減る。日常でエネルギーを節約する例としては次のようなものがある。

・徒歩や自転車ではなく車を使う。
・公共交通機関ではなく車を使う。
・公共交通機関ではなくキックボードを使う。
・自分で料理を作らずに出来合いの物を買う。
・電話する代わりにメールやチャットを送る。
・空港で普通に歩かずに「動く歩道」を歩く。
・手動の芝刈り機ではなくエンジン式あるいは自動芝刈り機を使う。

楽できる選択肢があるおかげで、やりたいことにもっと時間を使えるという意見もあるだろう。しかしたいていの場合は無意識に、太古の昔からの本能に従ってエネルギーを節約できる方を選んでいるのだ。