「ドーパミンの重ね掛け」は危険

クイック・ドーパミンをくれる活動に依存してしまうと、それが〈悪魔のカクテル〉になる。スロー・ドーパミン、つまり長期的に良い効果を生む活動から遠ざかってしまうのだ。しかも、簡単に手に入るクイック・ドーパミンには二次的な悪影響もある。耐性ができてしまって、楽しいものをひたすら求め続けてしまうというものだ。

ユーチューブを見ながらゲームをし、スナックを食べ、ソフトドリンクを飲む――知り合いにもそういうことをしている人がいるだろうし、あなた自身もやっているかもしれないが、これは4つのドーパミン源を重ねている状態だ。そんな人に他のドーパミン源なしで不朽の名作『カサブランカ』を観させたりしたら拷問でしかないだろう。1942年には映画館で観客を夢中にさせ、当時としては最高にエキサイティングでドラマチックな映画だったのに。

この「ドーパミン重ね」を自制する能力は人生において必須で、健康的な〈天使のカクテル〉をつくるのにも欠かせない。ここで〈天使のカクテル〉のつくり方に入る前に、「ドーパミン泥棒」についても説明しておこう。

青いカクテル
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企業はクイック・ドーパミンで金儲けしている

ドーパミン泥棒とは何者で、どこに隠れているのか。実はそこら中にいて、人生最愛の相手よりも近寄ってくることがある。それは我々の時間(=ドーパミン)を奪って金を儲けようとする企業だ。例えばゲームアプリの会社は次のような手段を使っている。

1.ユーザーがアプリやホームページに長く留まるようにして、広告主からの収入をさらに増やす。
2.アプリを長い時間使わせ、アップグレードやアップデートに課金しやすくする。
3.多くのユーザーからドーパミンを盗むほどユーザーが増え、アプリやホームページ、企業の価値が高まる。

職人技とも言えるこの乗っ取り行為が成り立つのはユーザーに可能な限りのクイック・ドーパミンを出させるからだ。そのために企業は人間の認知機能、心理、生理的な反応を研究してゲームやカジノアプリの開発をしている。色や音、フォルム、アニメーションを駆使してクイック・ドーパミンを最大限に出させるのだ。

では、そういった企業はスロー・ドーパミンに着目しないのだろうか。なぜありのままスロー・ドーパミンの価値を提供しないのか。それは「エスカレーター現象」が起きてしまうからだ。すでに「エスカレーター」を使っているユーザーは、別の企業に新たに「階段」を提供されても、余計なエネルギーを投じなければならないだけだ。それは進化の過程で一番避けてきたことではないか。