クイック・ドーパミンとスロー・ドーパミン

ドーパミンには2種類あると言えばわかりやすいかもしれない。名づけてクイック・ドーパミンとスロー・ドーパミン、短い効果しかないドーパミンと効果が長く続くドーパミンだ。実際にはそんな名前のドーパミンはないが、わかりやすくたとえるとそうなる。クイック・カロリーとスロー・カロリー(ゆっくり消化吸収される健康的な糖質)のような感じだ。

脳のイメージ
写真=iStock.com/Naeblys
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白いパン、パスタや砂糖など吸収の速い炭水化物は素早くエネルギーをトップまで持っていけるが、あっという間にクラッシュしてしまう。ドーパミンの場合、それがインスタグラムの動画に相当する。

一方、スロー・カロリーは全粒粉のパンや玄米、レンズ豆、雑穀から得られ、エネルギーが長く持続する。スロー・ドーパミンを放出させてくれるのはどんなものかというと、その瞬間だけでなく将来的にも役に立つような活動や体験だ。

大事なことだからもう一度書くが、スロー・ドーパミンの特徴はその瞬間だけでなく将来的にも役に立つような活動や体験から得られるという点だ。そして祖先が体験していたドーパミンの多くはスロー・ドーパミンだったはずだ。ではここでスロー・ドーパミンの例を見ていこう。

読書や運動、セックスはスロー・ドーパミンを放出する

知識やエネルギー、モチベーションを与えてくれるような動画は人生において長期的な燃料になる。何かを変えたい、創造したいという意思や願望を与えてくれるし、人生を前に進める力をくれる。その逆は、その瞬間だけ楽しませてくれる動画を何百本もスクロールし続けること。後には虚しさだけが残る。

小説を読むのもスロー・ドーパミンが出る活動だ。読書の効果がその瞬間だけではなくその後も長く続く。ストーリーの中で起きることをシミュレーションするから想像力が養われ、脳の大部分を使うし、読み終わるまであらすじやキャラクターを覚えておかなくてはならないから記憶力も鍛えられる。

何かを学ぶことでもスロー・ドーパミンが出る。知識は記憶を鍛えてくれるし、新しい知識はクリエイティビティにもつながる。新しいアイデアというのは古いアイデアを組み合わせたものだからだ。知識のおかげで周囲の世界を理解しやすくなるし、様々な社会的状況で他人と会話する能力にもつながる。知識があればあるほど、さらに知識を積み上げることができる。

運動もスロー・ドーパミンを放出してくれる。運動の効果は挙げればきりがないが、最も重要なものだけを書いておくと、心血管疾患のリスクが減り、体力が養われ、睡眠の質が上がり、神経可塑性も高まり、免疫系が強化され、とりわけ精神の健康においては他に類を見ないほど重要だとされている。

セックスによってもスロー・ドーパミンが放出される。セックスの効果は(お互いに望んだ上でのセックスであれば)、最長で48時間もパートナーとの関係が良好になったと感じさせてくれる(*1)。有酸素運動の一種でもあるし、セロトニンとオキシトシンのレベルが上がるから〈天使のカクテル〉の材料として秀逸だ。

*1 Quantifying the Sexual Afterglow: The Lingering Benefits of Sex and Their Implications for Pair-Bonded Relationships by Andrea L. Meltzer, Anastasia Makhanova, Lindsey L. Hicks, Juliana E. French, James K. McNulty, Thomas N. Bradbury(2017)