プラチナマイスターになるためにはまず、「プラチナ社会学」を学んでいただきます。高齢者は往々にして、過去の経験を語るばかりになってしまいますが、今の社会の姿や未来の社会の姿に、自分の過去の経験を照らし合わせて活かす力が必要です。

プラチナ社会学では、社会が今後、どのように変わるのか、未来の姿を学んでいただきます。さらに、コミュニケーション学も必要です。年寄りは往々にしていばりたがり、若手に自分の話を一方的に聞かせたがる。しかし、それではだめです。複数の世代が相互理解を進めるためのコミュニケーションを学んでいただきます。

アフリカや中東の出生率も低下し始めている

これら2つを身に付けることで、高齢者の本当の価値が活きるはずです。そのうえで、高齢者が活躍できる場を作る予定です。ぜひやりたいのが教育分野です。教育現場では、高齢者の助太刀が不可欠です。学校の先生方が教育内容の変化についていくのは大変です。おまけに雑務の量もおびただしいのです。プログラミング、理科の実験、いじめ、英語など、さまざまな分野で、プラチナマイスターが役立つはずです。

まずは東京、横浜、長崎で、小学生向けのロボット教室を始めました。プラチナマイスターと大学生が講師です。高齢者と大学生、小学生という多世代の対話によってこそ、新しいものが生まれるのです。

現在約73億人の世界の人口は、まだしばらくの間増加します。しかし、人口が増加しているアフリカを含め、世界のほとんどの国で、出生率は下がり続けています。また既に世界の約半分の地域で、現在の人口を維持できるだけの出生率を割り込んでいます。これらの国ではやがて人口はピークに達し、その後減少し始めるでしょう。経済が成長し教育が普及すると出生率が低下するというのが、歴史の教えるところです。現実にアフリカや中東の出生率は低下し始めています。つまり、人類全体が遅かれ早かれ、おそらく21世紀の半ばにも、日本が直面しているような高齢化社会に突入するのです。

高齢化社会は、脅威でもなんでもありません。人びとの認識と制度を、「元気な高齢者が増えている」という実態に合わせていけばいいだけなのです。高齢化先進国である日本が、その先鞭をつけるべきなのです。

小宮山 宏(こみやま・ひろし)
三菱総合研究所理事長。1944年生まれ。67年東京大学工学部化学工学科卒業。72年同大学大学院工学系研究科博士課程修了。88年工学部教授、2000年工学部長などを経て、05年4月第28代総長に就任。09年4月から現職。専門は化学システム工学、CVD反応工学、地球環境工学など。サステナビリティ問題の世界的権威。10年8月にはサステナブルで希望ある未来社会を築くため、「プラチナ構想ネットワーク」を設立し会長に就任。
(写真=iStock.com)
関連記事
「長寿大国ニッポン」何が"めでたい"のか
「月収20万円の70歳常務」が感じる幸せ
"国境"をなくせば、日本は豊かになるのか
なぜ日本だけ「Uber」が広がらないのか
日本も原子力発電ゼロは「達成できる」