「当たり前のこと」ができているか

実はJALの社内でも、JALフィロソフィ教育が始まった当初は、そんな空気が流れていたという。どうして、いまさら大の大人がこんな当たり前のこと、道徳のようなことを学ばなければいけないのか、と。

しかし、やがて気づいていくことになる。こんな当たり前のこと、普通のことが、実はできていなかったのではないか、と。教育を通じて、だんだんそれがはっきりとわかっていったのだ。

特別なことが書かれているわけではないと思えるが、よくよく読んでみると、果たしてこれを自分自身が「本当にきちんと」できているかどうか、考えさせられる。自分の仕事に照らし合わせたとき、この通りに行動できているか。フィロソフィ実践のために、どんな仕事の仕方や考え方をすればいいか。だからこそ、それができるところまで、JALは教育に落とし込んでいったのである。

「エアラインの差はサービス力でつく」

そして、JALのサービスレベルを大きく向上させることになったのも、間違いなく、このJALフィロソフィだった。書籍の取材では、そんな声を次々に聞くことになった。

エアラインは、機材などのハード面では容易に差別化できるものではない。飛行機を作るメーカーは世界で限られる。客室の内装にしても、それほどびっくりするような差別化を図れる要素は少ない。

仮にあったとしても、あっという間にまねをされてしまってもおかしくない。また、機内食などソフト面や企画力も、いずれはまねされる宿命がある。

では、何が最終的にエアラインの差別化になるのか。ずばり、それはサービスである。植木社長は、取材でこう語っていた。

「エアラインの差はサービス力でつく。しかも、これは簡単にまねができない」

だからこそ、人への投資、教育は重要な意味を持ってくる。そしてここで、長い時間をかけ、しっかり理念を浸透させたサービス力や人間力は大きな武器になる。しっかりと根付いた「心からの思い」がサービスを変えていくのである。実際、JALのおもてなしには、今や接客マニュアルはない。

上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター。1966年兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに雑誌や書籍、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人超。著書に『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)他多数。
(写真=iStock.com)
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