2010年1月に経営破綻したJAL。本社社員と当時60社を超えたグループ会社の現場社員との間には大きな隔たりがあった。そこから再浮上する過程でJALに何が起こったのか。

(左から)客室本部客室マネジャー・廣野仁さん、空港企画部旅客グループ・中島絵梨さん、路線統括本部マイレージ事業部・藤本奈々子さん

2016年7月7日の七夕の日、東京・天王洲アイルにある日本航空(JAL)本社で、「JALなでしこラボ」の研究発表会が開かれた。

会場にはJALの社員や43あるグループ会社の関係者が集まり、300人ほどの客席は満員。壁際まで人で埋まる盛況のなか、JALグループの若手から中堅の社員で構成される3つの研究グループの「1期生」たちは、一様に緊張した面持ちで7カ月間の研究成果を発表した。

「JALなでしこラボ」とは、同社の「ダイバーシティ推進」の取り組みの名称である。パイロット出身の植木義晴社長と客室乗務員出身の大川順子専務の肝いりで立ち上げられたもので、グループ全体での女性活躍推進の目標の取りまとめ、ワークスタイル変革を目的とした研修などに力を入れる。そのなかで社員がつくる社内研究プロジェクトは、「JALなでしこラボ」の軸となる試みの一つだ。

「JALなでしこラボ」の発表会。日本全国から集まった本社とグループ会社の社員が3グループに分かれ発表を行った。質疑応答では本社の役員やグループ会社の社長からも手が挙がった。

この日、社内外でのヒアリングやアンケート結果を分析した3グループは、それぞれ「意識」「ポジション」「継続性」というテーマに分かれ、「同じ課にモデルとなる上司がいない」「職場における介護の現状」といった課題を発表した。メンバー自身の働く職場からの提言は同社にとって、まさに草の根からの視点を吸い上げる目的がある。

発表メンバーの一人で、路線統括本部・マイレージ事業部の藤本奈々子さんは、研究プロジェクトに参加した感想を次のように語る。

「これまでの私には、JALグループ全体のことを真剣に考える機会がほとんどありませんでした。でも、集まったメンバーの所属会社は、さまざまなグループ会社にまたがっています。そのなかで7カ月間にわたって議論を続けたことは、JALグループの将来のために一丸となって何かを考えよう、自分たちから動きだそう、と思えるきっかけになったと感じています」

また、空港企画部・旅客グループの中島絵梨さんも言う。

「研究プロジェクトに参加して知ったのは、JALというブランドを支える他のグループ会社の仲間が、どんな職場の雰囲気や状況のなかで働いているかということでした。異なる職場の人たちと対話して考えを結集すれば、自分のいる会社だけでは気づかなかった問題点があぶり出されていく。その確信を得られたのは大きかったですね」

大川専務はそんな彼女たちの発表の様子を見て話す。

「大切なのは彼女たち自身が変わること。以前のJALでは表明できなかった思いを堂々と発表するという行動が自信につながる。そして、自分たちの『働き方』の課題を見つけ、自信を持って行動した彼女たちがそれぞれの職場に戻っていくことに、この活動の意義があります。研究プロジェクトに参加した社員が輝く人になり、輝く仕事をして周囲に影響を与えていく。そんな好循環をつくりたい。今回の1期生の発表は、そうした社員を増やしていく最初の第一歩になったと思っています」