こうしたなかで、同社が次の一手として掲げたのが、「JALなでしこラボ」に代表される女性活躍推進だったという。

14年、植木社長は「グループ全員の総力で“世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社”を目指す」と語り、そのための経営戦略として「ダイバーシティ宣言」を行った。そのなかで女性社員の活躍推進を打ち出し、以来、「人財の多様化と個性を活かし合うことで、新たな価値を生み出すことができる」と繰り返し語ってきた。人事部のダイバーシティ推進グループ長・福家智さんは、その背景を次のように説明する。

「弊社の特徴として、全体として女性と男性の比率に差はそれほどない一方で、男性が多い職場と女性の多い職場の偏りが極端なことがあります」

人財本部 人事部 ダイバーシティ推進グループ長 福家 智さん

例えば女性が圧倒的多数を占める客室部門では、以前から育児をしながら働ける環境をつくり上げてきた歴史があり、従業員のダイバーシティに対する意識も高い。近年では女性初の客室本部長を務めた大川氏が代表取締役専務に抜擢されたことも、一つのモデルケースとなりつつある。

対して整備部門など男性の多い職場では、働き方の環境づくりの取り組みは遅れてきた、と福家さんは続ける。

「よって、すでに女性の働きやすい環境が確立している部署の長所を活かしながら、ワークスタイル変革、会社の風土醸成や人財育成を進めていこう、というわけです。トップが明確にそのメッセージを打ち出した2014年以来、社内の雰囲気ががらりと変わりました」

この2年間、同社は管理職向けの研修や制度面での改革を進めてきた。人事部の行った調査によると、2年前は30代前半の女性社員で「自分の将来のビジョンを明確に描ける」という回答が顕著に低かったが、実際に女性社員の登用を進めて「身近なモデル」が増えていくと、それが一気に男性社員と同じ水準まで回復したという。

「破綻からの再生を進めてきた日々を経て、ようやく女性活躍推進に本格的に乗り出すことができた。トップが強いメッセージを送ってからのスピード感はやはり違う」と大川専務も言う。

代表取締役専務執行役員 大川順子さん

「JALなでしこラボ」の研究発表メンバーの多くも、植木社長や大川専務という後ろ盾があるからこそ、職場で働き方の改善や環境づくりを堂々と提言できるようになった、と語っていたのが印象的だった。

2人が旗を振るダイバーシティの取り組みを俯瞰(ふかん)して気づくのは、飛行機を飛ばすための「現場」に光を当て“これからの働き方”という共通の課題を、グループ全体で考えるようになったことだろう。彼らのダイバーシティ推進の取り組みも、その流れに位置付けられるものだ。