航空事故は、離陸時の3分間と着陸時の8分間に集中している。このため航空業界には「魔の11分間」という言葉がある。では離陸と着陸はどちらがより危険なのか。現役パイロットに聞いてみると、7割以上が「離陸時のほうがより気をつかう」と答えるという。なぜなのか。航空ジャーナリストの秋本俊二氏が考察する――。
7割の現役パイロットが「離陸のほうが緊張する」
飛行機の離陸と着陸は、どちらが怖いのか。これまで何人もの現役パイロットにインタビューしてきた結果、数の上では「着陸よりも離陸のときのほうが緊張する」という意見が多い。コクピットでは離陸時のほうがより気をつかう、という声は、全体の7割以上となった。なぜか?
理由のひとつは、着陸時と離陸時の速度の違いである。鳥が空から地上に舞い降りるときに翼を大きく広げてふわりと接地するのと同様、飛行機も着陸時にはスピードを落としながら空港にアプローチしてくる。反対に、エンジンを全開にし、フルパワーで加速しながら行うのが離陸だ。そのときのフライトの条件(機体重量や風速など)にもよるが、大型機が離陸するときの速度は時速300~350kmにもなり、あるベテラン機長は「着陸時と離陸時で時速は100km近く違う」と話す。その分、緊張も高まるというのだ。
飛行機が空を飛べる理由
では、なぜ離陸時には時速300キロ以上での滑走が必要になるのか? まずは飛行機を空中に浮き上がらせる力――「揚力」を理解するための、身近にできる簡単な実験を紹介しよう。
スプーンをひとつ用意し、キッチンか洗面所へ行って水道の蛇口をひねり、水を出す。下の画像のようにスプーンの柄の先端を親指と人さし指で軽くはさんでぶら下げ、丸く膨らんだ背中側を流れている水に近づけてみてほしい。スプーンの丸い部分が水に触れた瞬間――どうだろうか? スプーンは流れている水に吸い寄せられたはずだ。蛇口をいっぱいにひねって水流を増すと、スプーンを引き寄せる力はさらに強くなる。