これを真横にした形を考えると、飛行機の主翼に発生する揚力が理解できる。飛行機の主翼の上面も丸くふくらんでいて、その断面はスプーンを真横から見た形状とそっくり。この場合の水道の流れは、すなわち空気の流れだ。翼の上面のみに速い速度で空気が流れると、翼の上下で空気の圧力の差が生まれて「負圧」という力が発生し、これが機体を上に持ち上げる揚力になる。

高速道路を走るクルマの助手席で手の甲を上にしてスプーン(主翼)のように丸い形をつくり、窓から出して腕の力を抜くと、甲の表面に空気が流れて少しずつ上に持ち上がっていく。これも主翼の上面に空気が流れて揚力が発生する原理と同じだ。クルマの速度を上げると手の甲が吸い上げられる力も強まるように、乗客や燃料を積んだ状態で総重量が優に300トンを超す大型機を限られた長さの滑走路で離陸させるには、時速300km以上の速度が必要になるのである。

なぜ「離陸のほうが緊張する」のか

さて、本題に戻ろう。パイロットが「着陸よりも離陸のほうが緊張する」と口にするもうひとつの理由が、搭載している燃料量の違いである。離陸時は燃料が満タンで、そのぶん機体重量も重い。JALやANAが日本から欧米などへの長距離路線で主力機材として運航している最新のボーイング777では、積載する燃料(ケロシン)は最大で約17万リットル(大きなドラム缶で約850本分)にもなる。燃料の重さだけで約140トン――つまり機体とほぼ同じ重量の燃料が機内に積まれるわけだ。ちなみに大型機の燃料タンクは、左右に大きく伸びる主翼の内部に備え付けられている。

燃料タンクは主翼内部に備え付けられている