ツール3 グチを糧に逆転する

帰国後、日本での職探しは悲惨でした。52歳の専業主婦に仕事はありません。ようやく見つけたのが電話受付のパートでした。私は電話が鳴ったらすぐに出る、率先して事務所を片付ける、わからないことは周りの人に何度も聞くと決めて実行しました。「質問が多い」「しつこい奴だ」と嫌がられもしました。でも、専業主婦だった私に、仕事のやり方はよくわからないのだから、聞かなくては仕事ができません。

ある時、些細な質問をして、古参社員に「そんなこともできないの? ろくに電話にも出られないくせに!」と嫌みを言われました。

私はなんとか仕事を覚えようと必死に働いていたので、悔しくて泣きそうになりました。その時の私のチョイスは、仕事を辞めるか、言い返すか、ふたつにひとつだと思い込んでいました。でも、家に帰って10分間、思い切りグチっているうちに、別の道が頭に浮かびました。逆襲です。

と言っても、自分にも周りにもプラスになるような逆襲です。

徹底的に実践、マニュアルを作り繰り返す

翌日から徹底的に電話に出て、マニュアルを作って、そのとおりに完璧に繰り返す――これを実行して数カ月後には完璧に仕事ができるようになりました。

嫌みを言われてから1年後、私のほうがお客さんが増えて売り上げも上がるようになりました。嫌みを言った人は、私に仕事のやり方を聞いてくるようになり、私は彼女にマニュアルをあげました。大逆転です。

これは「グチは10分まで」の効用のなせるわざ。10分しかグチれないと思うと、集中してグチるため、頭の回転がよくなるのかもしれません。グチそのものが逆転のツールになったのです。

グチの無い人なんていません。どんな立派な人だってグチのひとつやふたつは出るもの。でもそう悪いものではありません。そう思って、グチと付き合うと気がラクになります。

延々と繰り返すグチは、身をほろぼします。

「グチをこぼすのは10分まで」「グチを聞くのは10分まで」というルールを作ると、つらいことがあっても、立ちあがって前に進めます。

薄井 シンシア(うすい・しんしあ)
1959年生まれ。海外勤務の夫について20年間海外で暮らす。17年間の専業主婦の後、47歳のとき、バンコクで“給食のおばちゃん”になる。帰国後、52歳で電話受付のパート。その後、3年でANAインターコンチネンタルホテル東京の営業開発担当副支配人になる。シャングリ・ラ ホテル東京勤務の後、現在、日本コカ・コーラ(株)で東京2020オリンピックのホスピタリティ担当に従事。著書に『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』(KADOKAWA)がある。
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