テクニック2:客観的に言い換える

学生が書く論文・レポートや社会人が書く企画書・報告書は、事実を正確に伝えなければなりません。こうした文章のなかで、使用をできるだけ控えたほうがよい表現があります。それは、「多い」「少ない」です。

・早朝の羽田空港は人が少なかった。

この例文の「少なかった」は書き手の主観です。人によっては「早朝のわりには多かった」と感じる場合もあるでしょう。人数を書くわけにはいかないでしょうが、人が少ないと判断した客観的な基準を添えれば内容が的確に伝わります。

(言い換え例)
・早朝の羽田空港は人が少なく、いつもは行列ができる保安検査場に誰も並んでいなかった。

大学院生時代、大学受験のための小論文の添削指導をしていたとき、悩まされたのが「さまざま」「いろいろ」でした。与えられたテーマについて深く考えていなくても、「さまざまな問題」「いろいろな見方」などと書けば、もっともらしい文章に仕上がります。それで、多くの受験生は満足してしまいがちです。

しかし、そうして書かれた文章は十分な力を備えていないのが現実です。抽象的な表現は抽象的なままでは力を持ちません。抽象と具体を往復することで、初めて表現としての力を得るのです。一般的な内容を書くときには具体的な表現を添えることが文章の説得力を上げる秘訣と言ってもよいでしょう。

たとえば、旅行に出かけるとき、どのような観点でホテルを選ぶでしょうか。部屋の広さや見た目のきれいさなど、それこそ「さまざま」でしょう。

・ホテルを選ぶときは、さまざまなポイントを検討する必要がある。

例文はもっともらしいですが、その実、何も言っていません。もちろん、すべてのポイントは盛り込めませんが、厳選して言い換えれば次のようにできるでしょうか。

・ホテルを選ぶときは、部屋の広さやベッドのタイプ、朝食が和書か洋食か、さらにはトータルの料金や最寄り駅からのアクセスなど、さまざまなポイントを検討する必要がある。

こうすれば、「さまざま」に明確な内実が付与され、文章としての説得力がぐんと高まります。