自分の書いた文章が幼稚に見えることはありませんか? その原因は、「きれいな」「さまざまな」といった形容詞の使いすぎにあるかもしれません。「文章では形容詞を避けるべき」と説く国立国語研究所の石黒圭教授が、知的に見える「大人の文章テクニック」を紹介します――。

※本稿は石黒圭『形容詞を使わない 大人の文章表現力』(日本実業出版社)を再編集したものです。

私たちの反応は形容詞でできている

文章に説得力を持たせたい。そう感じている人は多いのではないでしょうか。そんな人には、自分の書いた文章を折に触れ、読み返すことをおすすめします。もしそこに、「すごい」「おもしろい」「多い」「きれいな」などの「形容詞」があちこちに隠れていたら、要注意です。

石黒圭『形容詞を使わない 大人の文章表現力』(日本実業出版社)

文章に形容詞を多用すると、読者の理解を得にくくなります。なぜなら、形容詞は直感的で主観的な言葉だからです。それは、人間が何かに触れ、それを言葉にするとき、形容詞が反射的に出てくることからもわかるでしょう。

女子高生がアパレルショップに入り、まず口にするのは「かわいい」です。おなかをすかせた男子大学生がメガ盛りの丼をまえに、感動とともにつぶやく言葉は「やべえ」です。道を聞いてきた外国人に流ちょうな英語で返す友人を見たときに出てくる言葉は「すごい」でしょう。このように、私たちの反応は形容詞でできていると言ってもいいくらいです。

形容詞は説明に不向きな品詞

ところが、形容詞は、聞き手が目の前にいる場合はよいのですが、自分が考えていることや目にした情景を、文章で目に浮かぶように説明をするのには不向きな品詞です。その原因は、次に挙げる「形容詞の3つの発想」にあります。

1. 大ざっぱな発想

(例)・映画『君の名は。』はすごい。
・日本のアニメはおもしろい。

この例のように、ただ「すごい」「おもしろい」と言われても、相手は「何がすごいか」「どこがおもしろいのか」がさっぱりわかりません。

2. 自己中心的な発想

(例)・早朝の羽田空港は人が少なかった。
・冬の湘南の海に、寒いなか、サーフィンにいそしむ若者が大勢いた。

「多い」「少ない」は主観的な言葉なので、読み手によって解釈が変わってしまいます。

3. ストレートすぎる発想

(例)・フロアとキッチンのやりとりがうるさいです。
・つまらない人生だ。

形容詞を使ったネガティブな表現は、必要以上に鋭くなりがちです。直接的すぎてコミュニケーションには向きません。

誰にでもわかりやすく説得力のある文章を書くには、こうした直感的な形容詞の使用をできるだけ避け、表現に一手間加えることが大切です。とはいえ、難しいレトリック(修辞技法)を学ぶ必要はありません。ここでご紹介する、形容詞を別の言葉に言い換える「表現の引き出し」を使えば、読み手に伝わる、大人の文章表現力を身につけることができます。