そしてもうひとつ、ビル側の裏の狙いも存在する。

「災害発生時には、テナントを超えたビル内での助け合いが必要になってきます。そうした事態を想定して、日頃からテナント同士の交流の機会を設けたいという考えがあります」(三井不動産広報部・荒木孝さん)

実際、のど自慢大会によって会社を超えた交流が生まれ、ビル内有名人も誕生している。エレベーターホールで「あの◯◯に出演していた人ですよね」などとコミュニケーションが生まれる場面もあるそうだ。

今年優勝を果たした「夜桜お七」(画像提供/三井不動産ビルマネジメント)

参加者増員でうれしい悲鳴

もっとも、課題もある。

「このまま参加ユニット数が増え続けると、予選から決勝までが3日間におさまらなくなる可能性があります。観客も増加しており、周辺のビルに迷惑をかけない運営を考えていかなければいけません」(前出・山﨑さん)

まさにうれしい悲鳴である。年々応援が加熱しているため、ルールの改変にも余念がない。新宿三井ビルが目指すのは「経年優化」だ。イベントの価値を上げることに力を入れている。

かつて新宿副都心エリアの周辺ビルでも、「のど自慢大会」が行われていた時期がある。だが結局、参加者数の伸び悩みなどで打ち切られ、現在はひとつも残っていない。43年にわたって続けている三井不動産は、リスペクトされてしかるべきだろう。三井グループは「人の三井」と言われるが、人を育てる、組織を活性化させるという意味で、三井らしいイベントだとも感じた。