老舗企業・東芝のエリートでさえも
このようなことは、一部のブラック企業に限られたことではない。「支配される」というと恐ろしい非日常的なことのようだが、実はわりとたやすく起こっていることだともいえる。
たとえば、今年発覚した東芝の不正会計問題もそうだ。「チャレンジ」という名の下に利益の水増しが求められ、そのノルマは「3日で120億円つくれ」という途方もない数字だった。
歴史と伝統のある老舗企業に勤めるエリートたちが、経営者を含め、なぜこのような不正に手を染めてしまったのか。心情はさまざまでも、彼らに共通することは「こうするしかない」と思い込まされる「認知のゆがみ」が生じているということなのだ。
「認知」とは「ものの見方」や「考え方」のことで、これは心の問題やコミュニケーションにとても大きな影響を及ぼす。特に、形式や秩序にとらわれやすい、頑固、完全主義的などの傾向が強いとき、人は物事にのめり込みやすく、心に余裕がなくなりがちだ。すると、考え方の幅が狭くなるために、ほかの可能性が考えられなくなってしまう。
こうした傾向を、心理学では心理的視野狭窄ともいう。「この道しかない」「ほかに方法がない」と視野が狭くなり、心に余裕がなくなってほかからの支配を受けやすい。振り込め詐欺や悪質商法などにもひっかかりやすい状況だといえる。
「この道しかない」は、自民党安倍政権のキャッチフレーズでもあるが、実に危険を孕んだメッセージだ。
うまくいっているときはいい。しかし、物事がうまくいかなくなったときに「この道しかない」と思ってしまう人は、結局そこで人生が破滅してしまったり、心の病に陥ったり、あるいは、自分の言葉に縛られるという自縄自縛の奴隷状態が起こってしまう。
つまり、企業の不祥事の場合には、社員が奴隷状態になっているだけでなく、同時に上司や経営者が「この道しかない」というゆがんだ認知の奴隷になっているのだ。
従来の日本型経営からアメリカ型の株主重視経営への移行で、企業はどこも長期的な利益が考えにくくなった。経営者は会社のブランドイメージよりも目先の利益を挙げることを優先し、社員は終身雇用ではないので、会社の存亡よりも今現在の昇給やクビにならないかを心配する。即物的で、短期決戦型。すべての人たちが近視眼的になっていて、騙されやすい時代なのだと思う。