悩みや迷いを吹き飛ばす

輝かしい実績を挙げ、経済誌にも頻繁に取り上げられているような経営者は、傍からはたいした苦労もせず、やすやすと会社を運営しているように見えるかもしれない。

しかし、それは大きな間違いだ。当たり前だが生まれつきの名経営者や、テレビドラマの主人公のように、絶対に失敗しない社長なんているわけがない。みな人知れず苦労し、悪戦苦闘しながら、やっとの思いで結果を出しているのである。

「神になりたい」

富士フイルムホールディングスの古森重隆氏は、CEOに就任したときこう思ったとのちの取材で語っている。不遜な発言にも聞こえるが、決してそうではない。

押し寄せるデジタル化の波で、それまで会社の売り上げの3分の2を占めていた写真フィルム事業には危機が迫っていた。自分が道を誤れば会社がつぶれてしまうかもしれない。プレッシャーにつぶされそうになりながら、必死でもがく古森氏の叫びが、「神になりたい」という言葉だったのだ。

海外でもまったく物怖じしない、明るくオープンな人柄と思われているソニーの創盛田氏も、もともとそういう性格だったというわけではないようだ。前出の平松氏によると、盛田氏はよくこう言っていたという。

「経営者は、ネアカでないといけない。企業のトップに立つ者は、たとえどんなに辛く苦しい局面に立たされようと、部下の前では絶対に暗く沈んだ顔をしてはいけない。明るいふりをしなさい。上に立つ者が暗い顔をしていると、社員に伝染し、会社全体が暗い雰囲気に包まれてしまう」

ちなみに、平松氏が海外でこの話をすると、「苦しくてもネアカのふりをする」というところにみな感動するのだそうだ。

「一直線に成功というのはほとんどありえないと思う。成功の陰には必ず失敗がある。当社のある程度の成功も、一直線に、それも短期間に成功したように思っている人が多いのだが、実際はたぶん1勝9敗程度である」

(左)古森重隆氏●富士フイルムHD CEO(右)柳井 正氏●ファーストリテイリング会長

この「1勝9敗」は、ファーストリテイリング柳井正会長兼社長の代名詞といっていい。ユニクロを一代で世界ブランドにしたあの柳井氏ですら、うまくいくのは10回のうち1回と聞けば、たしかに勇気が湧く。

ただし、柳井氏は、単純に10回挑戦すれば1回は成功するから失敗を恐れるなと言っているわけではない。人より早くたくさん失敗し、なぜ失敗したか考え、それを財産として次に活かす。1勝9敗は、ひとつの成功のためには9回の失敗と学びが不可欠という意味なのである。

(撮影=門間新弥、的野弘路、小倉和徳、岡倉禎志、宇佐美雅浩 写真=AFLO)
関連記事
本田宗一郎流 情熱の燃やし方「まずはやってみろ」
孫正義から参謀へ「今すぐ大至急」「よし、見えてきたな」
逆境で潰れそうなときに必読ベスト10
側近が語る、「名経営者のジェントルマン伝説」
成長しない限り存在意義はない -ファーストリテイリング会長兼社長 柳井 正氏