同様に、一流の経営者ならではの常識に縛られない発想がなければ、あのウォークマンもこの世になかったかもしれない。ソニーの創業者である盛田昭夫氏は、開発時からウォークマンというネーミングが気に入っていた。ところがウォークマンというのは、典型的な和製英語。それに気づいたスタッフが、海外では英語として正しい言葉に替えたほうがいいと進言した。ところが、盛田氏は頑として首を縦に振らず、こう言って押し切ったのである。
「使うのは若い人だ。若い人たちがそれでいいというのだから、いいじゃないか」
当初、別の英語商品名で売り出した国もあったが、来日ミュージシャンが好んで日本から持ち帰り、結果的にウォークマンの名のほうが定着した。
では、盛田氏はなぜそこまでウォークマンという名称にこだわったのだろうか。当時、ソニーの海外広報課係長を務めていた平松庚三(こうぞう)氏はこう分析する。盛田氏は開発当初から、国や地域の電圧や安全基準に関係なく、単三電池があれば世界中で同じものが使えるウォークマンを、ソニー初の「グローバル・プロダクト」にすると決めていた。だから、コカ・コーラのように、世界のどこでも同じ名前でなければならなかったのである。英語として正しいかどうかより、すでに日本で浸透していたウォークマンという名称が、世界中で認知されることのほうが、盛田氏にとっては大事なことだったのだ。
欧米で最も信頼されているオックスフォード英語辞典に、「ウォークマン」という言葉が掲載されることが盛田氏のひとつの夢だったという。そして、現在では、その言葉はしっかり辞典に加わっている。
では、ここが勝負というとき、固定観念にとらわれない自由な発想ができるようになるにはどうしたらいいのだろう。ぜひ参考にしたいのは、ライフネット生命保険・出口治明会長兼CEOのこの言葉。
「日ごろから風が吹いたときに凧を揚げられる準備をしておけばいいのです」
多くの人は、この日ごろの準備が足りないから、いざ勝負となると、ケガをしないことばかり考えて安全運転を選んでしまう。周囲をあっと言わせるような豪胆な手を打てるかどうかは、ひとえに平生の過ごし方にかかっているのである。