高度成長期も終盤を迎え、家電の売れ行きにも陰りがさしてきた。これに危機感をもった松下氏は、打開策を話し合おうと熱海のホテルに全国の販売会社と代理店を集める。すると、現場からは松下の商品や売り方に対する不平不満が噴出。これに対し松下氏も「みなさん本当に、血の小便が出るまで、苦労されたことがありますか」と応酬し、議論はまるでかみ合わない。
そして、3日目に松下氏の口から出たのが、先の言葉だ。言い終わると松下氏の目からは涙がこぼれ、会場は静まり返ったという。自らの非を認め、真摯に詫びる松下氏の姿に、それまで口を連ねて文句を言っていた販売会社側も心を打たれ、そこから両者は歩み寄るようになり、ほどなく松下電器の業績は回復に向かった。
メーカーと販売会社の力関係は明白である。だからといって、メーカーの言うことを聞けという態度ではうまくいくはずがない。相手の言い分にも耳を傾け、謝るべきところは潔く謝る。本心から発した言葉なら、それが謝罪であっても、相手の心に刺さるのだ。
一方で、武蔵野の小山昇社長は、はっきりと社員にこう要求する。
「わが社を選んで入社したからには、少なくとも9時から17時までの間は社長たる私の方針に従ってください」
いくら優秀でも仕事のやり方や価値観がばらばらだと、シナジー効果が生まれず効率が悪い。とくに中小企業の場合は、社内に社長のコピーを増やせば増やすほど、組織が堅牢になって業績も上がるのだという。たしかに、芸事の世界でも、修業の第一段階は徹底的に師の芸を盗むことだから、小山氏のこの考え方にも一理あるといえる。
ただし、社員にこう言えるのは、社長が自分のやり方に確固たる自信をもっているからこそなのだ。