どんな逆境においても諦めず新しい可能性を信じて突き進む。その瞬間、何を思い、突き進むのか。意気消沈する社員を励まし、進むべき方向を示してきた真のリーダーたちの名言とその決意を追う

大勝負への覚悟を伝える

組織の上にいくほど、判断の重要性は増してくる。ましてやそれが経営者ともなると、どんな判断を下すかが会社の浮沈に直結するといっても過言ではない。だから、常に慎重な姿勢が求められる。そうかといって、トップがリスクを嫌い、無難な選択ばかりしていたら、その会社は資本主義の厳しい競争に勝てないだろう。

ここぞというときには大勝負に打って出る大胆さと勇気もまた、経営者には必要なのである。

「モデムを100万台発注しろ!」

かつてソフトバンクの社長室長として、Yahoo! BBやナスダック・ジャパン(現JASDAQ)の設立に関わった三木雄信(たけのぶ)氏は、ソフトバンクの孫社長のこの言葉がいまも忘れられないという。

孫氏は、00年代前半のネットバブルの崩壊で会社の業績が低迷すると、起死回生の策としてブロードバンド事業への参入を決める。

当時のブロードバンドはADSLが主流で、初期費用が数万円もかかり、さらに毎月の利用料金も6000円前後と非常に高額だったため、一部のマニア以外はなかなか手が出せなかった。そこで、孫氏は費用を引き下げるために、モデムを大量発注して安価に調達するという策を思いついたのである。

孫 正義氏●ソフトバンクグループ創業者

だが、まだADSLの加入者が数万人しかいないのに、100万台という数はあまりに無謀すぎる。もしさばききれず膨大な在庫を抱えることになれば、会社は耐えられない。三木氏をはじめ周囲のスタッフは大反対したが孫氏は譲らず、100万台の注文書に自らサインしてしまった。

さて、結果はというと、孫氏の狙いどおりモデムの価格を安く抑えることができたソフトバンクは、破格の値段設定で市場に参入、これによってそれまで高額ゆえに敬遠していた一般家庭のユーザーを取り込むことに成功し、業績はV字回復を遂げたのである。

孫氏の100万台という発想は、いってみれば規格外だ。三木氏は言う。

「いざというときにこの規格外の発想を生み出し、勝負に出られることが孫氏の強みであり、魅力なのだ」と。