世の中をよくするその思いが、教養を深める
その名も『教養の書』。久々に大上段に振りかぶったタイトルの本に出合った感がある。それにしても、なぜいま教養なのだろう。
「世の中がいまのままでいいというなら、教養よりも処世術のほうが役に立つでしょう。でも、もっとましな世の中にするための仕事は、教養がないとできません。そのことを伝えたかったのです」
実際、この社会をよくしたいと考える人が、特に若者の間で増えているという。それを戸田山和久氏が強く感じたのは、昨秋、政府が大学入試に英語民間試験を導入しようとした際、当事者の高校生が声を上げてそれを阻止したのを目の当たりにしたときだ。
「あそこで中心となって動いたのは、民間試験にも十分に対応できる進学校の生徒たちでした。彼らは自分たちの損得ではなく、住んでいる地域や親の収入で差がつくような制度はおかしいといって立ち上がった。高校生やるじゃないかと思いましたね」
世の中がもっとよくなるよう自分も貢献したいという思いがあれば、必要な知識は自ずと入ってくる。教養とはそういう「態度」のことで、年齢を経て知識や情報が増えれば、教養が身につくわけではないことを本書は強調する。
それなのに、大人ほど自分の日常を世界のすべてと錯覚し、世の中なんてこんなものとわかったような気になりがちだ。こうなるとその人は、どんどん教養から遠ざかっていく。これを避けるには、会社以外の人に会うことだと戸田山氏。
「たとえば、自治会活動に積極的に参加してみる。すると、そこには会社とは違う価値観や発想の人がいるはずです。あるいは、読書を通じて作者や主人公と対話をするのも悪くありません。そうすると、それまで見えなかったものが見えてくる。世の中のためにできることもね」