社外取締役の仕事は「社長の介錯人」
ただし問題点もあります。超ベテラン社長は「誰にも代わりが務まらない」という存在ですから、10年先の経営ぶりは不透明です。自身の「引き際」をどう見極めるのか。事業承継のリスクがつきまといます。
セブン&アイの騒動でも、この点が問題になりました。今年5月の株主総会で鈴木会長は退任し、井阪氏がグループのトップとなります。鈴木会長が井阪氏の退任を求めたことが騒動の発端ですから、事業承継で混乱したことは間違いありません。
一方で、評価できる点もあります。鈴木会長の人事案が否決されたのは、コーポレート・ガバナンス(企業統治)が機能した結果だからです。
セブン&アイの社外取締役の1人である伊藤邦雄氏は、一橋大学の副学長などを歴任された企業統治の第一人者です。伊藤氏の持論は「社外取締役の仕事は社長の介錯人」。社外取締役の役割とは、社内のしがらみや利害関係に縛られず、株主の利益という視点で経営を監督することです。伊藤氏は自身の言葉通り、鈴木会長の「介錯人」として、退任を促す判断を下されたのでしょう。
企業統治の仕組みが機能したケースとしては、最近では大塚家具の「親子喧嘩」が挙げられます。創業者で会長だった父親と、社長の長女が経営権をめぐって激しく対立し、結果的に長女が勝ちました。最大の勝因は「議決権行使助言会社」が長女を推したからだといえます。
2014年にできた「日本版スチュワードシップ・コード(※1)」 により、投資運用会社や信託銀行、保険会社などの機関投資家は、株主として議決権を客観的に行使することが義務づけられました。もしコードができる前であれば、取引実績の少ない長女は不利だったでしょう。ところが、現在では議決権行使に客観的な理由が必要になるため、助言会社のレポートが強い影響力をもっています。
安倍政権は企業の競争力を高めようと、企業統治の強化を打ち出しています。社外取締役の活用は、その中心です。しかし、どれだけ仕組みを整えても、正しく運用されなければ、「仏作って魂入れず」です。