日本企業を滅ぼす「顧問」という慣行
これまで社外取締役には「社長の賛同者」が選ばれる傾向がありました。取締役会をイエスマンで固められれば、地位にこだわる経営者にとっては安心ですが、これからはそうした企業は株式市場で評価されないでしょう。投資家からすれば、今回、鈴木会長の「介錯人」となった伊藤氏のような人物こそが、社外取締役にふさわしい。そうした社外取締役のいる企業は市場で評価されます。セブン&アイの株価も、鈴木会長の退任会見のあとは上昇基調です。
懸念されるのは、鈴木会長の影響力がグループ内に残ることです。日本経済新聞や毎日新聞は、鈴木会長を「最高顧問」などの名誉職に処遇することが議論されていると報じています(※2)。 仮に名誉職が用意されるとすれば、問題の棚上げになります。
日本の大企業では、社長が「最高意思決定権者」であるとは限りません。実質的には4~5番手の存在で、「最高顧問」や「名誉会長」が実権を握っている場合が少なくありません。彼らは取締役会の議決権はなくても、取締役会に提出する議案に「事前に目を通す」といった形で、事実上の裁量権を握っているのです。
「顧問」の存在は、企業統治に悪影響を及ぼします。法律上、取締役の選任は株主総会で決議する必要がありますが、顧問の選任は決議を経る必要がありません。つまり顧問は、株主の監視を受けないのです。
アメリカでは、社長経験者が顧問を務める場合、報酬や役割を開示する義務があります。日本もそうすべきでしょう。
この点において、「超ベテラン社長」の企業では、最高意思決定権者が明確であるため、本来、「顧問」の問題は起きません。鈴木会長が稀代の経営者であることは間違いありません。だからこそきっぱりと全役職から退任すべきだと思います。
※1:金融庁は、2016年3月24日現在で206の機関投資家が「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」について「受け入れ表明」をしていると発表している。
※2:日本経済新聞電子版「セブン&アイ、社長に井阪氏決定 鈴木氏は退任」(2016年4月19日17時54分)毎日新聞デジタル「セブン&アイHD 井阪氏の社長昇格決定 取締役会」(2016年4月19日17時56分〈最終更新4月19日21時07分〉)