会議に同席した後、社長から「あのとき、どうして俺がこの発言をしたのかわかる?」などと語りかけられることも多々あるといい、受講者は日々、トップの考え方を直に吸収していく。研修中に見聞きしたことを事細かに記したノートは何冊にも及ぶという。
「経営者の仕事、立ち居振る舞いを間近で見聞きするうち、『パーティでも、ずっと立って挨拶をしているので、全然食べられないんだとわかった』ということから、『限られた情報や時間で意思決定が迫られるギリギリの状況に常に身を置いていることを実感した』『プライベートよりも会社や部下を優先している姿を目の当たりにし、自分の足りないところばかりが見えてきた』など、その重みを実感するようです」とトヨタインスティテュート主査(取材当時)の福井猛は語る。
今回の教育改革で導入された選抜型研修のうち、最も裾野の広い研修が、課長級昇格者約400人を対象とした「基幹職能力向上プログラム」、通称(幹プロ)。トヨタが「教え/教えられる風土」の再構築を目指すうえで、恐らく一番の肝となる研修だ。ネーミングは1980年ごろに張富士夫名誉会長も受講し、社内で伝説となっている全管理職研修(管プロ)にあやかっている。
この研修の新しい点は、今まで一部の管理職のみを対象としていた管理職養成プログラムを、部下の有無にかかわらず課長級以上の昇格者全員を対象として実施するという点だ。実は課長級昇格者のうちグループ長などの管理職に就いているのは3~4割程度。つまり、この研修は、部下のいないスタッフ職にも受講させ、もれなくマネジメントを担う自覚と、部下や後輩を育成する力をつけ、「教え/教えられる風土」の再強化を図ろうという試みなのである。
研修は1年かけて随時行われ、経営トップの講話からはじまり、宿泊型の集合研修では管理職としての役割、トヨタ流マネジメントといわれる方針管理法、部下との面談の方法などの育成、評価の手法を習得。Webで講演を見たり、e-learningで知識を学ぶといった課題も多く用意されている。
しかし、なんといっても「教え/教えられる風土」を重んじるトヨタらしいのは、こうした研修の講師すべてを、アドバイザーと呼ばれる部長級社員が任命される点だ。1人のアドバイザーが20人の受講者を担当し、宿泊研修、その後の定期的な読書会や施設見学、飲み会をするなどといったゼミ活動を通じて強固な師弟関係を築いていく。