その移動は本当に必要か

トヨタ社員の仕事ぶりはみな、効率的で、速い。肝はムダ取りにある。例題は企画書作成時のムダ排除をトヨタ式でやるというもの。一見ムダなど存在しないように思える作業だが、人材育成支援会社OJTソリューションズ・大鹿辰己氏はこう語る。

「なんとなく書き始める。これが諸悪の根源です。まずは業務の目的が明確なまま、始めること。あやふやなまま進めて軌道修正を迫られれば、結果として時間がかかります。企画書作成前には、どんな狙いがあり、どこに評価ポイントがあるのか、何度も自問してください」

▼例題にチャレンジ
Q. 食品メーカー勤務のあなたは至急の案件として、新商品の企画書作成を課長から指示されました。作業の工程は次の通りでした。あなたは今回の作業を振り返り、ムダを取り除いて、もっと効率的な作業方法を考えてみようと思いました。さて、どれだけのムダを削減することができるでしょうか。

「仕事」は4つに分類できるというのがトヨタ式の考え方。(1)主作業(例題では企画書の文書作成)、(2)付随作業(文書を作成するための情報収集)、(3)準備・後始末作業(上司に企画書の要旨説明)、(4)ムダ・例外作業(ぼんやり時間など)となる。

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「企画書作成」業務における改善点分析

「仕事を分類して見える化すると、注力すべき(1)が何かはっきりします。(1)に時間とエネルギーを配分しながら、(2)~(4)の作業をする。(2)では、情報収集時に本案件に無関係な情報には見向きしないこと。(3)では、事前準備として、過去、社内に類似の案件がなかったか調べる。あればそれをたたき台にして、時間を節約するのです」(大鹿氏)

仕事のノウハウや培った人脈は「人に教えたくない、俺の宝物」となってしまいがち。しかし社内の共有財産化したほうが最終的に会社にも社員にもメリットが大きい、と大鹿氏は語る。

業務を分類したら、5つのムダを探す。(1)品質のムダ、(2)滞留のムダ、(3)歩行・移動・流れのムダ、(4)種類・数量のムダ、(5)ミス・手直しのムダである。

企画書作成でいえば、パワーポイントにアニメーションを盛り込むのは(1)にあたる。凝り始めると時間に際限がなくなるが、その割に説得力はあがらない。情報収集のためだと遠隔地の支社まで出向き社員の聞き取り調査をするのは(3)にあたる。移動の時間がかかるので電話やメール、テレビ会議にすべきだ。

例題ではムダ取り術によって、当初540分かかったものが310分ででき、4時間近く早まった。その結果、注力すべき作業にあてる時間の配分を増やすことができたのである。