新入社員から叩きこまれる手法

どんな会社・部署でもトラブルは付きものだろう。トヨタもまたしかりであるが、そこで働く社員には強力な武器がある。

「5回のなぜ」だ。

トラブルに直面したとき、トヨタ社員は「なぜそれが起きたのか」を繰り返し考える。すぐに思いつく答えを安易に結論とせず、真の原因を探ることが目的だ。トヨタ生産方式の生みの親である元副社長の大野耐一氏が提唱したと言われる考え方で、トヨタ社員は新入社員のときから徹底して叩きこまれる。

早速、彼らの思考のプロセスをたどってみよう。まずは例題に挑戦していただきたい。

▼例題にチャレンジ
Q. あなたは営業部の課長です。営業部の売り上げ目標達成するべく、対策を練っています。現状を把握したところ、新規顧客へ複数回訪問している部下が少ないことがわかりました。その原因を探るにはどうしたらいいでしょうか。

ある営業部に在籍する課長が部下たちの新規顧客への訪問数が少ないことに気付いた。このゆゆしき問題をどう解決したらいいかを探るという内容だ。

今回、多くのトヨタ出身トレーナーが所属する人材育成支援会社OJTソリューションズ・大鹿辰己氏と岡内彩氏に解説していただいた。まず見てほしいのが、図だ。魚の骨のような形をしているが、これがトヨタ式思考を凝縮したものである。

図を拡大
フィッシュボーンで真因を探る

「まず手をつけるべきは、露呈した問題のおおよその原因を洗い出すことです(これが大骨部分にあたり、上の例題では「メンタル」「行動量」「スキル」が該当)。その際、3C(市場・顧客、競合、自社)や、4P(製品、価格、流通、PR)、4M(方法、材料、機械、人)といったフレームワークを使うと原因を見つけやすいです」(大鹿氏)

これが要因解析における第一の「なぜ」。ただし、要因であって、真因ではない。さらに「なぜなぜ」と追求するのである。

浮かび上がった「メンタル」「行動量」「スキル」という要因。次はそれらをそれぞれ掘り下げて「なぜ」を繰り返し、中骨や小骨を抽出していく。たとえば、「スキル」の少なさ、に焦点を絞ってなぜを繰り返してみよう。なぜ「顧客にうまく説明できていない」のか。スタッフに聞き取り調査をすると、「商品知識が不十分だった」とわかった。

要因が出そろったら、手を打てば、再発防止ができる真因はどれかを突き止める。「効果」と「実現性」の点から考えると見抜きやすい。例題の場合、最終的に真因は「相手状況の認識不足」と「商品知識の不足」「人と話すのが苦手」に絞られた。

「なぜ」の追求を「うまく説明できない」の段階で終えていれば、真因にはたどりつけなかったことがわかるだろう。